ライターI(以下I): 6月12日に放送された第23回は「富士の巻狩り」がメインの回になりました。この回は静岡県で大規模なロケが行なわれました。
編集者A(以下A): VFX(ビジュアル・エフェクツ)など映像技術は進歩していますが、ロケでの撮影となるとやはり臨場感が異なります。その大規模なロケを、同じNHKの『100カメ』という番組が密着したそうです。
I:第23回放送2日後の14日23時オンエアです。
A:当欄では以前から再三にわたって大河ドラマの美術スタッフに焦点を当てた番組を熱望していることを主張してきました。今回の『100カメ』は美術スタッフが主人公ではありませんが、大河ドラマのバックヤードに焦点をあてたという意味では、大河ドラマファン待望の番組だと思っています。
I:試写を見てどうでした?
A:巻狩りロケで撮影日として設定されたのが、予備日を含めて3日間。今回のロケはそのうち2日間が悪天候に見舞われた様子が描かれました。雨はともかく3月の末にまさかの雪。
I:見ていて、どきどきしちゃいますよね。しかも最終日も強風に見舞われ、せっかく設営したセットが崩れそうになってしまうという……。
A:とても衝撃的なシーンでした。この『100カメ』の試写を見て、改めて第23回のオンエアを見ましたが、幟が強風にあおられていて「あ、風が強い」というのがわかりました。演者の烏帽子も揺れていましたし、空も曇天。ロケのメイキングっぽい映像を見ると、いろいろ新たな発見もあり、本編を見返してみたくなりますよね。
I:私もついNHKオンデマンドで第23回を見返しましたよ。
オンエアたった4秒。「大河ドラマ最高の獲れ高」のシーンとは?
I:Aさんは日ごろから、美術スタッフの仕事ぶりを番組にしてほしいと主張していますが、その観点から『100カメ』を見てどう思いましたか?
A:大河ドラマの佇まいを確固たるものにしているのは美術スタッフさんをはじめとする裏方さんの力量による、ということをこれまでも繰り返し述べてきました。『鎌倉殿の13人』のような最高の脚本と融合した時の破壊力は凄まじいと、『100カメ』を見て、改めてその思いを強くしました。
I:なるほど。私はオンエアでたった4秒のイノシシが走るシーンを撮影するための映像が、スタッフの方が、ぼそっと漏らした「大河史上最高の獲れ高」という言葉とともに強く心に残りました。
A:このシーン、オンエアではまったく違和感なく挿入されていますから凄いですよね。番組の中では、撮影に動員された動物が〈猪〇頭、馬〇頭、うさぎ〇羽、タヌキ〇匹、キツネ〇匹(オンエアでは実数入り)〉と紹介されていたり、エキストラの人たちのことにも〈衣装〇、かつら〇、太刀〇(オンエアでは実数入り)〉と触れられていましたね。
I:その100人を超えるエキストラの方たちの着替えの様子も目を引きました。
A:いつかエキストラで参加したいなぁとも思わせてくれる場面でした。そのほか万寿(演・金子大地)が射た鹿の舞台裏や強風で倒れそうになったセットなど思った以上に見どころ満載でしたね。天候を気にするスタッフも印象に残りました。それともうひとつ。個人的には演出(監督)のヨシダさんがメロンパンとカレーパンを買い間違えたというシーンがツボでしたね。一見、「こんなシーンいる?」という場面でしたが、私自身、先日、帰宅後に買ったはずの本とは別の本がカバンに入っていたということがありましたから、気持ちがよく理解できました(笑)。ヨシダさんは大河に集中しすぎているという場面だと解釈しました。
I:100台のカメラで撮影した映像の総時間は1000時間にも及ぶそうです。にもかかわらずオンエアは30分。食品や飲料業界では新商品1000のうち定番商品になるのは3つ。俗に「せんみつ」といわれていますが、「せんみつ」を上回る映像採用率。
A:もったいないといえばもったいない。きっと面白い場面はまだまだあるはずですから、もっと尺を伸ばして速やかに第二弾に着手してほしいですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり