ライターI(以下I):今週は冒頭いきなり、義時(演・小栗旬)、八重(演・新垣結衣)が、「夫婦か」という雰囲気で登場しました。正式に夫婦として認めてもらおうとか、いったいどんな急展開なんでしょう(笑)。しかも八重が懐妊していることもわかりました。え? え? 誰の子ですか? とちょっと面喰いました。
編集者A(以下A):ほんとうですよね。でも義時の子なのでは?
I:義時の子でいいんですかね? それとも……。前週、大江広元(演・栗原英雄)と頼朝(演・大泉洋)が〈ひとつ気になったのが……〉、〈言ってくれ〉というやり取りで終わっていたので、何か意味があるのかと、少し混乱しました。
A:(笑)。
I:さて、治承四年の以仁王の令旨からわずか3年。信濃から進撃を開始した木曽義仲(演・青木崇高)の軍が、北陸道を駆け抜けて、入京しました。
A:頼朝軍と戦った富士川の戦いでの惨状を考えると、北陸で義仲を迎え撃った平家軍も弱かったんでしょうね。俗に「平家都落ち」と称される有名なシーンですが、平家は、安徳天皇と三種の神器とともに西国へ逃れます。
I:結局平家の最大のミスは、このとき後白河院(演・西田敏行)の身柄を確保できなかったことなんでしょうね。
A:平家側の視点に立てば、そこに尽きますね。
木曽義仲の「田舎者」のレッテルがひどい
I:義仲軍が入京しましたが、後白河院が、埃まみれの鎧姿で参内したことを疎ましく思っている様が描かれました。平家都落ちの大功労者である義仲ですが、法皇は頼朝の方に肩入れしていたのでしょうか。なんだか、義仲に田舎者のレッテルを貼って、さげずむ様子が印象に残りました。
A:牛車を降りる作法を知らずに、後方から降りたシーンは古典『平家物語』 にもある有名な場面。確かに作法には疎かったのかもしれませんが、誰か教えてやればいいじゃないかとずっと思っていました(笑)。忠臣蔵で浅野内匠頭にわざと作法などを教えなかった吉良上野介の「イジメ」にも似た雰囲気を感じます。
I:田舎者だとあざけるのは「貴族社会=THE京都」の体質。前週に嫡男義高(演・市川染五郎)を鎌倉に送ることを決断した際のやり取りで「男気のある義仲」が描かれたばかりですから、その義仲をあざける京都・朝廷の「イジメ体質」をより強調した演出だったと私は解釈しています。
A:時代が遡りますが、坂上田村麻呂が蝦夷(東北地方)に侵攻した模様を描いた『清水寺縁起絵巻』の中には坂上田村麻呂軍と戦う「蝦夷軍」が描写されています。初めて見たときにびっくりしたのですが、蝦夷軍は明らかに異形として描かれています。当時の中央の地方観を知る格好の材料だと感じました。
I:『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編下』の87頁に掲載されているものですね。確かに蝦夷軍の人たちは、明らかに田村麻呂軍とは、異なる種族のようですね。
A:頼朝の時代は、坂上田村麻呂の時代から、約390年経過していますが、根底にある地方蔑視観はそれほど変わっていなかったのではないかと思うんですよね。頼朝も地方では? と思うかもしれませんが、頼朝の場合は平治の乱で敗れるまで、京都住まいですし、右兵衛佐という官職も得て、後白河院の姉である上西門院の側に仕えていたわけですから、義仲とはまったく異なる立場でした。実は、後白河院が義仲を疎んじるには、背景があるといわれています。義仲は、平家とともに都落ちした安徳天皇の後継に以仁王の遺児を推したそうです。皇位継承に口出ししたことで、義仲は「虎の尾」を踏んでしまったと。そのために徹底的に排除されることになったということにも触れておきます。
I:日本一の大天狗と言われた法皇ですから、そのくらいのことは朝飯前の芸当でしょう。
A:ちなみに後白河院の側にいて義仲を笑っていた九条兼実(演・田中直樹)は、藤原道長の孫の孫の孫(昆孫)。実兄の松殿基房が義仲についていましたから、構図としてはわかりやすいですよね。
I:なんだか、一度、義仲が主人公のストーリーを見たい気もします。まったく異なる描写になりますよね。
A:埼玉県や長野県など義仲ゆかりの自治体が『「義仲・巴」広域連携推進会議』なるものを結成して、将来の大河ドラマ採用を目指して運動しているそうです。大願成就したらいいなと思っています。
大姫と義高さまの幼き恋
I:義高と大姫が耳引きという遊びを楽しんでいました。
A:〈姫と遊ぶのは楽しゅうございます〉という義高の台詞が胸に迫ります。義高と遊びたいという大姫の思いは、真実だと思いますが、義高の言は実質人質である自分の立場をわきまえたものだと思うと、その健気さに泣けてきます。
I:義経が義高に〈もし鎌倉殿が義仲と戦うことになったら、わかってるか? お前は殺されるんだぞ〉と語っていました。
A:1歳の時に父義朝が敗死した義経と2歳の時に父親(義賢)が甥(頼朝の兄義平)に殺された義仲は境遇が似ています。その義仲の子息で鎌倉に人質として入った義高と義経にも何かしらの接点があったのかもしれません。劇中のようなやり取りがあったかもしれないですね。
I:その義経が義仲を討つために上洛することになりました。
A:兄頼朝とのやり取り、なんかじわっときます。もっと語り合いたかったという頼朝の声は真実だったと思いたいです。そうした頼朝の思いが、今後どう踏みにじられていくのか……。やっぱりこの時代めちゃくちゃ面白いですね。
I:私は、義高が集めている「蝉の抜け殻」が気になりました。俗に「空蝉(うつせみ)」ともいわれますが、儚い思いを仮託しているのか、未来への暗示なのか、とっても気になりました。
A:お守り代わりかもしれないですし、万葉集のころから枕詞でも使われていますし……。何か意味があるのかもしれないですね。引き続き、注目していきましょう。
上総広常――「熱波を感じる展開」を見逃すな
I:千葉常胤(演・岡本信人)、岡崎義実(演・たかお鷹)、土肥実平(演・阿南健治)らの不満が頂点に達しているようです。部下の思いに無頓着なのは、高位・高貴な人にありがちですが、頼朝は度が過ぎたのかもしれないですね。そこで目がつけられたのが、上総広常。『翔ぶが如く』で坂本龍馬、『炎立つ』で源義家、『新選組!』では芹沢鴨に扮した佐藤浩市さんが演じているだけに、熱波を感じる展開になりそうで、絶対に見逃せない回になりそうです。
A:『炎立つ』の一部、二部は個人的には、五指に入る傑作大河でしたが、藤原経清(演・渡辺謙)、藤原清衡(演・村上弘明)との絡みが強く印象に残っていますし、『新選組!』の芹沢鴨の最期も記憶に留められたままです。Iさん指摘のように本作も「熱波を感じる展開」になりそうです。それだけに、歴史を何も知らずに『草燃える』を見ていた小学4年生、5年生のころに戻って本作を視聴したい欲求にかられます。
I:今後どういう流れになるのかわかっている歴史ものの宿命ですね。ただ、本能寺の変も赤穂事件も骨格のストーリーがわかっているのに楽しめる。今後幾度も登場するであろう粛清劇も想像をはるかに越えてハラハラする描写ばかりになりそうです。
A:いろいろ伏線が張られている気配もしますし、次回はハンカチ必須の回になりそうです。なんといっても「鎌倉がふたつに割れた」のですから。
I:またまた、「大河ドラマ史上屈指の名場面になる!」っていいたいんですよね。
A:今のところ、「その予感がする」ですけどね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を足掛け8年担当。初めて通しで見た大河ドラマ『草燃える』(1979年)で高じた鎌倉武士好きを「こじらせて史学科」に。以降、今日に至る。『史伝 北条義時』を担当。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり