国内外で支持される「伝統と革新」の味と技
ヒレかつサンドでその名を世に知らしめた『とんかつ まい泉』の開業は昭和40年。今や全国に直営店が62店、レストランは14店を持つ一大とんかつ店として周知されているが、生みの親がごく普通の主婦だったことはあまり知られていない。創業者の故・小出千代子さんを知るレストラン事業本部長の相田基さん(54歳)はこう語る。
「出発点は日比谷の10坪ほどの店だったそうです。ヒレかつサンドは当初からの人気メニュー。元々は宝塚の女優さんから幕間にさっと食べられる品を望まれ、作るようになったと聞いています」
『まい泉』が自慢とする「箸で切れるやわらかなとんかつ」も、創業当時からのコンセプトだという。
「先代は常々、たった一本の筋の切り損ないで肉の食感が変わってしまうといっていました。丹念な筋切りが大事であると」
女性の眼差しで食べやすさを、経営者としての視点で美味しさを追究し、その精神は、事業をサントリーホールディングスに継承した今も、脈々と受け継がれている。
甘みとコクを求め独自に豚を飼育。“マイスター制度”で料理人も育成
創業時からの技術を継承しつつ、常に新たな挑戦もする。豚肉がいい例だ。より良い肉質を求め、独自にブランド豚「甘い誘惑」まで開発してしまった。広報グループ部長の西山由香さんは力説する。
「希少な『中ヨークシャー種』を、かつサンドのパンの耳をエサに混ぜて飼育した豚です。甘みとコクがあり、とんかつに最適です」
料理人の育成にも余念がない。パン粉の付け方は職人技の問われるところだ。そこで『まい泉』では、独自のパン粉マイスター制度を導入し、料理人が志を持って技術を会得できるよう取り計らっている。
外国人にも人気の味と雰囲気
東京・青山の本店レストランは職人の技を見ながら食事できるカウンター席があり、客が絶えない。
「コロナ禍前は、こちらに来店される3割は海外からのお客様でした。みなさん、柔らかな肉の食感に感激されていたようです」
と西山さんは話す。また、平成24年からは海外へもレストランを展開し、人気を博しているという。
ごく普通の主婦が育てた「とんかつ」の味が、世界に誇る「日本の食文化」のひとつとしての知名度を、ぐんぐんと高めている。
とんかつまい泉
東京都渋谷区神宮前4-8-5
電話:0120・428・485
営業時間:11時~21時(最終注文)
定休日:無休
交通:地下鉄銀座線ほか表参道駅A2出口より徒歩約3分
※この記事は『サライ』2022年5月号より転載しました。