親密な関係を構築した秀吉と利休

信長に仕えたのち、天下統一を実現した豊臣秀吉(1537~98)。北野大茶湯の開催を通じて、茶の湯を民衆に普及させた功績も大きい。 名護屋城博物館蔵

豊臣秀吉は、利休を天下一の茶匠に押し上げた立役者といえる。ふたりの出会いは、秀吉が信長の家臣だった頃まで遡る。信長は、家臣が自らに断りもなく茶の湯に興じることなどを禁じる御茶湯御政道を推し進めていた。一方で、秀吉は鳥取城の攻略など数々の武勲を挙げた功績から、茶の湯を嗜むことを許され、褒賞として茶道具を与えられている。名物を入手する過程で、茶の湯への関心は自ずと高まっていったのだろう。

利休が秀吉に茶頭として仕えたのは、信長が本能寺の変で自害したのちのことである。秀吉は利休を登用し、信長の正当な後継者であることを示そうとしたのかもしれない。そして、その後の関係は公私の区別がないほど特別なものになっていく。その縁の深さを物語るふたつの城、小田原城、大坂城を訪ね、ふたりの関係を繙いてみよう。

小田原城

北条氏は関東地方の防衛と秀吉との攻防を意識し、城下町を囲む総延長約9kmにも及ぶ堀や土塁を築いた。現在の小田原城天守は昭和35年に復興。
神奈川県小田原市城内6-1
電話:0465・22・3818
開館時間:9時~17時(入館は16時30分まで)
入場料:510円
休館日:12月第2水曜、12月31日~1月1日
交通:JR・小田急電鉄小田原駅から徒歩約10分
小田原城は復興された天守や常盤木門などが見どころで、石垣も良好に残る。秀吉が築いた石垣山城は、小田原城の南西約20㎞に位置する。
秀吉が小田原攻めに合わせ、小田原城を見下ろせる高台に築いた石垣山城。関東地方で最初期に完成した総石垣の城で、堅牢さを誇った。写真/小田原城総合管理事務所

利休は秀吉の戦いに付き添い、城や陣屋でお茶を点てる機会も多かった。天正18年(1590)、秀吉は関東を制圧すべく、北条氏の居城・小田原城を包囲した。この小田原攻めにも利休は同行。小田原城の南西、笠懸山に築いた石垣山城で、兵士の士気を高めるための茶会が行なわれた。また、利休は城から茶人の古田織部(1544~1615)に宛てて、築城の進捗状況を記した手紙を出しており、側近として様々な情報を知る立場にいたことがうかがえる。

難攻不落とされた小田原城も、秀吉の約22万もの軍勢によって、ついに開城となる。長く続いた戦国時代に終止符を打つ出来事であった。北条氏を滅ぼした秀吉は関東を手中に収めたのち、奥州を平定し、天下統一を成し遂げた。

異なる意匠のふたつの茶室

大阪城天守閣

かつて石山本願寺を攻めた秀吉がその跡地に築いた大坂城は、日本最大級の規模をもつ城郭で、現在の天守閣は昭和6年に建築されたもの。
大阪市中央区大阪城1-1
電話:06・6941・3044
開館時間:9時~17時(入館は16時30分まで)
入館料:600円
休館日:12月28日~1月1日
交通:JR大阪城公園駅より徒歩約15分
大阪城天守閣へは森ノ宮駅からも徒歩約20分。現在見られる石垣や櫓などの遺構は江戸幕府による再築城以後のもの。

利休は生涯を通していくつもの茶室を設計している。なかでも、天正10年(1582)頃に完成した京都・妙喜庵の「待庵」と、天正14年(1586)に完成したとされる大坂城の「黄金の茶室」が代表的なものだ。ふたつの茶室はその趣も対照的で興味深い。
 
秀吉が利休に造らせたという黄金の茶室は、実物は現存しないが、大阪城天守閣の中に復元模型が展示されているので、ぜひ訪れたい。広さはわずか三畳だが茶室の前に立つと、まばゆいばかりの金色(こんじき)の輝きに目を奪われる。そして最大の特徴は、解体して持ち運びが可能だった点にある。完成直後に御所で正親町天皇に披露されたことにはじまり、大友宗麟が大坂城を訪れた際は、利休に茶を点てさせ、接待している。

権威を示した「黄金の茶室」

約三畳の組み立て式。天井や柱のほか茶碗や釜などの茶道具も黄金製で、畳の表は赤みの強い猩々緋色(しょうじょうひいろ)。派手好みな秀吉の趣向が表れている。

秀吉は大坂城内の山里丸に簡素な茶室を設けていたが、黄金の茶室はもっぱら来客をもてなし、様々な機会に披露して、天下人の権威を示すための舞台装置だったといえる。
 
秀吉は信長同様に、茶の湯を愛し、政治的なパフォーマンスに巧みに活用した。狭小の茶室の中では親近感が生まれ、密談もしやすい。さらに茶道具の名物を披露することは、自らの権力を誇示するうえで効果的であった。黄金の茶室はそうした秀吉の政策の象徴といえよう。

『サライ』5月号の大特集は「利休のこころを暮らしに活かす」。茶会における利休のもてなしの極意や、ゆかりの地を巡り、現代まで受け継がれる利休の精神を改めて学び直します。

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※この記事は『サライ』本誌2022年5月号より転載しました。

 

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