もはや「ご飯のおかず」という考え方だけで食してはいけない。新たな可能性を探り続け、歴史に名を残すかもしれない店とは。
7種類の上質な銘柄豚を「お値打ち」コースで味わう
とんかつマンジェ(大阪)
開店から25年、全国からこの店を目指すファンが途絶えることはない。いつか必ず訪ねたいと、愛好家や料理人たちが焦がれるのが、大阪府八尾市にある『とんかつマンジェ』だ。店主の坂本邦雄さん(63歳)は、大阪の調理師専門学校を卒業したのちホテルに就職。洋食のみならず宴会料理、仕出し料理などもみっちりと身に付けた後、現在の地で独立開業した。
当時、周りは商店などもない住宅地。そこに土地を購入し、建物だけでなく、石のカウンター、鏡張りの壁など調度にも予算をかけた。それは、ここで生涯やっていきたいという想いがあったからだ。
「とんかつ店なら、ハレの日だけでなく、毎日来ていただけるのではないかと思ったんです」
当初は地元客のみだったが、口コミで瞬く間に評判が広まり、気づけばグルメサイトで日本一の評価を得るほどになった。肉の研究に余念がない坂本さんが現在扱うのは、全国の銘柄豚から選んだ7種類。三重県の農業高校で育てられる「愛農ナチュラルポーク」など、一般には出回らない希少な肉もある。7種それぞれに脂の入り方、肉質や旨味も違うから「自分の好みを見つけてほしい」という。
とはいえ、これだけの人気は、豚肉の力だけではない。注文が入ってから豚肉を厚めに切り出し、しっかり筋を切る。小麦粉は極力薄く、牛乳を加えた卵にくぐらせ糖分の少ない生パン粉を軽く付ける。ラードと植物油をブレンドした揚げ油でじっくり時間をかけて揚げていく。その加減は長年の経験からくる勘だけという。
皿に散らされたトリュフ塩をつけて味わうと、衣は軽やかで、付いていることを感じないほど。ロースもヒレも柔らかく、噛んだ途端に肉汁が染み出す。
質の高い銘柄豚と手の込んだ調理の割に、価格設定が「お値打ち」なのも人気の秘密だが、「家賃もないし、調理も自分ひとり。値段が高いと誰も来てくれないでしょう」と坂本さんは笑う。
ロースもヒレも味わいたいなら「セレクトセットA」がおすすめ。ヒレ肉でフォアグラを挟んだ「フォアグラとんかつ」と特上のヒレ、上ロースにシャーベットが付く。
予約は店前の順番待ちリストに名前を記入する。遠方から訪ねるなら平日夕方の遅めの時間を狙えば、それほど待たずに入店できる。
大阪府八尾市陽光園2-3-22
電話:072・996・0175
営業時間:11時~14時、17時~20時(いずれも最終注文)
定休日:月曜、火曜
交通:JR関西本線(大やまと和路じ線)八尾駅より徒歩約5分
※この記事は『サライ』2022年5月号より転載しました。