おしゃべりする、ぼーっとする、読む、学ぶ、考える、俗世間の塵を払う──そこは人間にとって大切なものに満ちた場所。喫茶店でしか出会えない“普段着の京都”をご案内します。

伝説の雑誌『土曜日』の拠点となった反骨のサロン

改築部分は豪華客船を模した内装。メディチ家による限定複製の『モナリザ』が壁を飾る。

創業者の立野正一は、美術学校で絵を学ぶ画学生だった。治安維持法下で表現の自由が制限される中で労働運動に身を投じ、芸術や思想について語り合える場を作るため、昭和9年、喫茶店を始めた。店名は画家フランソワ・ミレーからとった。

同じ頃、松竹の大部屋俳優だった斎藤雷太郎は、タブロイド誌『土曜日』を創刊。誌名はファシズムに抵抗するフランス人民戦線の『ヴァンドルディ』(金曜日)にならった。立野はこれを支援するため、広告を出し、買い取って店で配布する。政治だけでなく映画や音楽の記事を載せた誌面は学生の人気を集めたが、斎藤らは逮捕され、『土曜日』は廃刊。立野も逮捕され、物資の不足もあって店を閉じた。

ウェイトレスの制服は50年くらい変わっていない。店オリジナルではなく、既製服だという。
ブレンドコーヒーとレアチーズケーキの「ケーキセット」1250円。コーヒーはフレッシュクリーム入りも注文できる。

錚々たる文化人が集う

戦後、『フランソア』は再開。複製名画やクラシック音楽を目あてに仏文学者・桑原武夫、映画監督・新藤兼人、俳優・宇野重吉など多くの文化人が集った。

創業者が収集したピカソのリトグラフ(石版画)。「3/200」という初期のナンバー入り。シャガールのリトグラフなども展示。

建物は平成15年に喫茶店として初めて国の登録有形文化財に指定された。が、それを記すプレートは見当たらない。店を継ぐ次女の今井香子さん(76歳)は「ブサイクだからつけてないのよ」と無頓着だ。そのかわり入口ではアジサイの鉢植えが客を迎え、店内には瑞々しい生花が活けてある。今なお居心地のよいサロンであり続けている。

創業時は左側の建物で営業。昭和16年に、右側の家屋を買い取って改築。内部でつながっている。

フランソア喫茶室
京都市下京区西木屋町通四条下ル船頭町184
電話:075・351・4042
営業時間:10時~22時(※最終注文:食事21時、飲み物・ケーキは21時30分) 
定休日:無休 
交通:阪急電鉄京都線京都河原町駅より徒歩約1分

【立ち寄り情報】
・河原町の繁華街や先斗町通まで徒歩約3分。
・「秋なら紅葉を見に高台寺や三年坂、清水寺方面、あるいは円山公園、知恩院方面まで歩いてみては」(店主・今井さん)。いずれもゆっくり歩いて店から1時間程度。

取材・文/大塚 真 撮影/塩﨑 聰
※この記事は『サライ』2021年10月号別冊付録より転載しました。

 

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