おしゃべりする、ぼーっとする、読む、学ぶ、考える、俗世間の塵を払う──そこは人間にとって大切なものに満ちた場所。喫茶店でしか出会えない“普段着の京都”をご案内します。

昭和の名優にも愛されたコーヒー専門店の草分け

山小屋風の落ち着いた店内。「ゆったりと自分の時間を楽しんでもらいたい」と、4人掛けでも相席にしないのが店の不文律だ。

「初代は手廻しの焙煎機を使って、焼いた豆を麻袋の上で冷ましていたそうです」

とは、3代目店主の元木章さん(46歳)。京都で現役最古参の自家焙煎コーヒー店だ。

昭和7年に洋食店『スマートランチ』として開店し、戦後に喫茶店として再開。屋号には、「近すぎず、遠すぎず、気の利いたサービスができる店に」というモットーが込められている。

入口横に鎮座するのは、創業から数えて4代目にあたるドイツ「プロバット」製の焙煎機。焙煎経験20年を超える元木さんは、文字通り先代の背中を見て実践を繰り返し、感覚を身に染み込ませてきた。オリジナルブレンドは、5種の豆の個性を引き出しながら配合し、飲みごろのタイミングで提供。10杯立てのネルドリップで淹れるコーヒーも、豆と同じく抽出後に時間を置いて味を馴染ませ、冷めてもおいしい一杯に仕立てる。

「焙煎の感覚は常に変化するので、日々、コーヒー豆と対話しながら行なうことが大事」という元木さん。
創業以来の名物メニュー「ホットケーキ」700円は、素朴な甘みで懐かしい味わい。「オリジナルブレンド」550円と相性抜群。

映画人ゆかりの名物も

戦前・戦後の一時期、下鴨に撮影所があり、多くの映画関係者が店を訪れた。少女時代の美空ひばりをはじめ昭和の名優たちの顔もあった。終戦直後、彼らが貴重な卵や小麦粉をこの店に持ち込み、「何か作ってほしい」と頼んだことで生まれたのが、ホットケーキやプリンといったメニューの数々。現在も当時のレシピそのままに、飾らない味わいは、今や店の名物だ。

「ここに来てこそ味わえるものを提供したい」と元木さん。細やかな気配りで、老舗ならではの古き良き魅力に磨きをかける。

賑やかな寺町通商店街のなかにあるモダンな店構え。店先の大きなコーヒーミルが目印。

スマート珈琲店
京都市中京区寺町通三条上ル天ん性寺前町537
電話:075・231・6547
営業時間:10時〜19時(最終注文18時30分)
定休日:ランチのみ火曜休
交通:地下鉄東西線京都市役所前駅より徒歩約3分

立ち寄り情報】
・本能寺まで徒歩約3分。本能寺の変のときは別の場所にあり、焼失後に現在地に移転。
・京都文化博物館まで徒歩約8分。旧日本銀行京都支店の建築は重要文化財。
・頂法寺まで徒歩約10分。本堂の形から六角堂の名で親しまれる、聖徳太子創建の古刹。

取材・文/田中慶一 撮影/塩﨑 聰
※この記事は『サライ』2021年10月号別冊付録より転載しました。

 

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