文/石川真禧照(自動車生活探険家)
都会の渋滞から住宅街の狭い路地まできびきび走り、運転感覚は軽やか。燃費が良くて、たっぷり積める。新発想で世界の車界を一変させたフィットが、小さいことの良さはそのままに生まれ変わった。
いまから約20年前に初代ホンダフィットが誕生した。当時は軽自動車の人気がいまほど高くなく、ホンダの技術者たちは人気車種シビックよりもひと回り小さい小型車を目指して、独自の発想で新しい小型車の開発に挑んだ。その結果、生まれたのは、ガソリンタンクを座席の床下に置くという斬新な車である。室内は中型車よりも広く、後ろの座席を折り畳めば背の高い植木も積めた。
フィットはたちまち人気車種になり、発売翌年には国内年間販売台数の1位を獲得した。2007年登場の2代目はハイブリッド車を投入。海外にも輸出され、グローバルカーとしての地位を築いた。
日本人にとって「心地よい車」
2月に発売された4代目フィットは、昨年10月の東京モーターショーで、世界初披露された。東京で初披露という点に、ホンダがこの新型にかけた意気込みが表れている。ホンダは、日本でフィットを売ることにこだわったのだ。
フィットは2代目のときに地球規模で販売される人気車になり、ともすれば販売台数の多い北米や中国市場からの声に応じた車づくりが求められるようになった。しかし、いまの日本の顧客はフィットに何を求めているのか。原点に回帰し、日本に最適な車を開発陣は徹底的に研究した。視界、座り心地、乗り心地……。日本人が本当に良いと思ってくれる「心地よい車」とは、どんな車なのか。
しかし、ひと口に「心地よい車」といっても、乗る人の年齢や性別、日常生活のあり方は様々である。それらを1台の車で満たすのは難しい。だから、新型フィットには、性格の違う5兄弟がいる。
先進の安全装備と快適機能を搭載し、一段と質を高めた
今回取材したのは、内装などに上級感のある「リュクス」のハイブリッド仕様である。このほかに室内に撥水素材を使用した「ネス」、最低地上高が高いアウトドア車「クロスター」、生活の道具として質感を高めた内装の「ホーム」、素のままの「ベーシック」など、計5タイプが用意されている。
車両の前方にカメラ、前方と後方に超音波センサーを備え、いざというときには自動ブレーキが作動する。ぶつからないため、不意に飛び出さないため、はみ出さないため、車間距離を保つためなど10種類以上の先進安全装備がすべて標準装備されている。
また、信号待ちや渋滞時に便利な「オートブレーキホールド」機能を全車種に標準装備。いったん停止すると、ブレーキペダルから足を離しても停車状態が保たれ、アクセルペダルを踏めば自動解除される。この機能は、日常の街中の運転に、とても重宝する。
運転席に座ると前方、斜め前方の視界が良く、実燃費は、街中の渋滞区間も含めて15~26km/h。気軽にどこにでも行きたくなる車で、山道や高速道路での走行安全性も高い。まさに日本のスタンダード車といえるだろう。
ホンダ/フィット eHEV LUXE(リュクス)
全長×全幅×全高3995×1695×1540mm
ホイールベース2530mm
車両重量1200kg(FF車)
エンジン/モーター4気筒DOHC、1.5L/交流同期電動機
最高出力98PS/109PS
最大トルク13.0kg-m/25.8kg-m
駆動方式前輪駆動
燃料消費率27.4㎞/L(WLTCモード)
使用燃料ガソリン
ミッション形式CVT
サスペンション前:マクファーソン式 後:車軸式
ブレーキ形式前:ベンチレーテッドディスク 後:ディスク
乗車定員5名
車両本体価格232万7600円(税込み)
問い合わせ先ホンダお客様相談センター 電話:0120・112010
文/石川真禧照(自動車生活探険家)
撮影/佐藤靖彦
※この記事は『サライ』本誌2020年8月号より転載しました。