文・石川真禧照(自動車生活探険家)
ポルシェといえば、車愛好家なら「911」という車体後部にエンジンを配したスポーツカーを思い浮かべるだろう。近年はSUV(スポーツ志向の多目的車)のカイエンやマカン、セダン系のパナメーラという車種も話題である。
とはいえ1948年の創業以来、半世紀以上も同社の屋台骨として存在しているのは911である。
長い歴史の中で、ポルシェの経営陣は911に次ぐスポーツカーを育てようと何度も試みている。しかし、どれも成功とは言い難いものだった。というのも、911の評判が高すぎて、911の性能を超える車種をつくることを顧客たちは許さなかったのである。
1996年、ポルシェは「ボクスター」という、エンジンを車体の中央付近に置いた(ミッドシップと呼ぶ)、ふたり乗りのオープンカーを発表した。ボクスターは、ミッドシップならではの安定感や優れた操作性が高く評価された。だが、それでも911を超える性能を与えることはなかった。
時代の流れは変化し、911が最良と信じて疑わなかった人たちが、ミッドシップ車の性能の素晴らしさに気づき始めた。その気運を感じ取ったポルシェはついに、ボクスターに911を超える性能を与えることにしたのである。
■新たな歴史を築くボクスター
そうして昨年秋に登場したのが新型ボクスターだ。車名に「718」という数字を冠し、718ボクスターと命名された。911は車両の開発番号だが、718は’60年代前後に大活躍した競技車の名称である。競技に勝つことで名声を得てきたポルシェの、この車にかける期待度の高さが窺える。
新型ボクスターの水平対向4気筒ターボエンジンは排気量が2.5lと2.0lの2種類あり、手動変速機か自動変速機を好みに合わせて組み合わせることができる。
同車は純粋なスポーツカーだが、実用性は意外と高い。例えば荷物置き場。室内は座席後方のわずかな空間だけだが、車体前部に約150lの荷物収納があり、車体後部にも約125lℓの荷室を備える。競技に参加できそうなスポーツカーであっても実用性を考慮する、これがドイツ車の考え方だ。
運転席に座り、アクセルペダルを踏み込めば、ミッドシップ車ならではの、路面に吸いつくような安定した走行性ときびきびとした操作性を存分に味わえる。
今回試乗したのは、2.5lで最高出力350馬力という強力なエンジンを搭載する「ボクスターS」だが、2ℓのボクスターでも最高出力300馬力を発揮する。個人的には、2l手動変速という組み合わせが好みだ。
何より驚かされるのは、その価格設定である。基本車種であれば600万円台で世界水準のスポーツカーに乗れるのである。興味のある方は、一度ハンドルを握ってみることをお勧めしたい。
【ポルシェ/718 ボクスター S】
■全長×全幅×全高:4379×1801×1280mm
■ホイールベース:2475mm
■車両重量:1410kg
■エンジン/排気量:水平対向4気筒DOHCターボ/249cc
■最高出力:350PS/6500rpm
■最大トルク:42.9kg-m/1900~4500rpm
■駆動方式:後輪駆動
■燃料消費率:13.3km/l(JC08モード)
■使用燃料:無鉛プレミアム/64l
■ミッション形式:7速自動変速機(PDK)
■サスペンション:前:ストラット式 後:ストラット式
■ブレーキ形式:前:ベンチレーテッドディスク 後:ベンチレーテッドディスク
■乗車定員 :2名
■車両本体価格:904万4000円
■問い合わせ:電話 0120・846・911(ポルシェカスタマーケアセンター )
文・石川真禧照(自動車生活探険家)
※この記事は『サライ』本誌2017年5月号の「名車を利く」欄からの転載です。