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文・写真/杉﨑行恭(フォトライター)

秋のある朝、私は留萌本線の増毛駅を訪ねた。時間は午前5時半、まだ黎明の頃で、駅裏の高台にある増毛灯台が力強い光を日本海に向かって投射していた。

それでも駅のまわりにはすでに数人の旅行者がカメラを構え、午前6時10分発の始発列車となる回送列車の到着を待ち構えていた。

じつは、この留萌本線の留萌〜増毛間16.7㎞は、平成28年12月5日に廃止されることが決まっている。これを惜しむ鉄道ファンや旅人が、最後の増毛駅を見ようとこの駅を訪れるため、休日ともなれば2両編成のディーゼル気動車が満員になるほどの混雑となっているのだ。

今回はそんな大賑わいの増毛駅を避けるために、増毛に宿を取って、早朝ここにやってきたのだ。

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留萌本線の単線線路は、増毛港と市街地の間に首を突っ込むように北上し、北向きに終着の増毛駅を置いている。このため朝日はホーム側からのぼり、一瞬駅舎を黄金色に染めた。

増毛駅は、一本の線路が駅舎の前で終わり、少し南側に土盛りの片面ホームがあるという、1面1線の終端駅だ。ホームの前は細長い空き地なっている。1970年代にはここに貨物側線があって、増毛港に上がる海産物を積み出す貨車が留置されていた。

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大正10年(1921)の開業時からある古い駅舎は、当初の建物を三分の一ほど切断した形になっている。かつて駅事務室だった場所が現在の待合室になっていて、一部に食堂が入居している。以前待合室だったスペースは、立派な公衆トイレになっている。それでも軒先のデザインなどに、かつての洋風駅舎の雰囲気を残している。

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駅前には旅館や食堂の看板を掲げた木造家屋が並び、特に今は観光案内所になっている『風待食堂』の看板が目立つ。そして駅構内を見下ろすように、高台に増毛灯台が立っている。

昭和56年(1981)に公開された日本映画『駅STATION』 では、この増毛駅と風待食堂との間の駅前が、高倉健と倍賞千恵子の情感あふれるシーンの舞台となった。

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いまでは北海道の日本海岸を縦貫する国道231号線が留萌と石狩を結んでいるが、昭和56年(1981)に全通するまでは、この増毛の先の雄冬集落は増毛からの定期船でしか行けない陸の孤島だった。そのため海が荒れる厳冬期には欠航が続き、増毛で出港を待つ(風待ち)をする人も多かったという。

ちなみに「マシケ」という地名は、ニシンの大群にむらがるカモメの群れをさすアイヌ語「マシュキニ」に由来するという。現在の増毛漁港は春先が旬のアマエビで全国的なブランドになっているが、ニシンはほとんど採れないという。

午前6時、回送列車のキハ54がステンレスの車体に朝日を反射させながら到着し、折り返しの普通列車となって数人の乗客を乗せ、6時11分に発車していった。再び静けさが戻った増毛駅では、駅舎内の食堂で開店準備が始まった。

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【JR北海道 留萌本線 増毛駅】
■ホーム1面1線の末端駅
■所在地:北海道増毛郡増毛町弁天町
■開業年月日:1921年(大正10)11月5日
■アクセス:札幌駅から函館本線深川駅乗りかえ、留萌本線で約3時間(函館本線特急利用)

写真・文/杉﨑行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。

 

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