広島県福山市の鞆の浦。瀬戸内海の潮の分かれ目となることから、古来潮待ちの港として『万葉集』にも詠われた地です。江戸時代には交易都市として栄え、今もさまざまな港湾施設が残ります。
その筆頭が安政6年(1859)に建造された常夜灯です。当時は鰊の油で灯を燈し、海を照らしていたといいます。さらに雁木、波止場、船渠(せんきょ)の役割を果たした焚場(たでば)跡、船番所跡がほぼ完全な形が保存されています。
また国の重要文化財に指定される太田家住宅があり、鞆の浦名産の薬酒・保命酒製造業で栄えた豪商の面影を伝えています。町並みを歩けば、江戸の昔にタイムスリップしたような歴史と風情が随所に漂う魅力にあふれています。
鞆の浦温泉は平成14年に開湯したラジウム含有量の高い放射能泉です。温泉を備えた宿からは瀬戸内海に浮かぶ弁天島と仙酔島を眺めることができ、海風を感じながらの湯浴みができる露天風呂もあります。
湯船で散策の疲れを癒し、さらに夜の町歩きへ。日帰りではできない鞆の浦観光を楽しみたいものです(写真の温泉は「景勝館漣亭」)。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。