2~3月の鎌倉は花でいえばウメが満開の季節。今年は大きな寒暖差のために、花の状態が完璧というわけにはいかなかった。風景写真の決定的シーンは狙って撮れることは少なく、どうしても何年もかけて撮影することになってしまう。
今回訪れた常立寺のウメも過去の写真レベルではなかったので撮影は見送った。この寺は厳密には鎌倉ではなく、藤沢市の東端だが、鎌倉文化圏にある寺院。日ごろは拝観者もそれほど多くないのだが、ウメの季節には多くの写真ファンが集まってくる。鎌倉周辺随一のシダレウメの名所だからだ。
そんなわけで、今回は過去の写真で常立寺のシダレウメを紹介。夜半に強い風雨にみまわれた翌朝に訪れ、満開の花が残念ながら散っていた時のカットが3枚目の「こぼれ梅」。雨で濡れた黒い地面にこぼれた花びらが浮かび上がって見えた。こんな偶然の出会いを逃さず撮影していくことが、風景写真の醍醐味だ。
地元ならではの早春の味を楽しむ
常立寺でのウメの撮影はあきらめて、腰越(こしごえ)の浜に向かう。
常立寺のある江ノ島駅からは江ノ電でひと駅、歩いても行ける距離に腰越の浜がある。近年、生シラスが人気だが、この時期はまだ禁漁期。かわりに、2月は養殖ワカメ、3月は天然ワカメを収穫している。鎌倉の坂ノ下や材木座海岸でもワカメを獲っているが、浜でワカメ干しをしている風情が好きで、私はいつも腰越漁師の加藤丸に通っている。
ある晴れた日、腰越の浜を目指して午前中の早めに出かけた。その理由はふたつあって、ひとつは干しワカメがまだ完全に乾いていないので、撮影目的ならワカメを美しい緑色に撮影できること。時間が経つと、ワカメは干上がって黒くなってしまうのだ。そしてもうひとつ、運が良ければなんと生ワカメを買うことができる。これをシャブシャブにして食すのが我が家の食卓に春を告げる定番料理。鍋に入れてシャブシャブすると、サッと色が緑色に変わる瞬間は、やがて木々が新緑に覆われる季節を予感させてくれる。
今年のワカメは休漁日が続いていたらしいが、運よく青空の下でワカメ干しに出会うことができた。そして撮影後には、ワカメの根元部分であるメカブもワカメと一緒に入手することができた。遠方からの観光客が生ワカメを買って持ち帰るのは鮮度などの点でいろいろ難しいが、最近は鎌倉市内の飲食店でもワカメのシャブシャブを提供するところがある。これなら誰でも気軽に鎌倉の早春の味覚を堪能することができる。
■常立寺(じょうりゅうじ)
紅白のシダレウメが並び咲く姿が見られるのは鎌倉でもここだけ。
住所/神奈川県藤沢市片瀬3-14-3
TEL/0466-26-1911
拝観時間/自由
拝観料/無料
アクセス/江ノ電江ノ島駅から徒歩約5分、湘南モノレール湘南江の島駅から徒歩約3分
■加藤丸直売所
海辺の風景としても魅力を感じる浜小屋。干しワカメは養殖1000円、天然ワカメは1200円
住所/神奈川県鎌倉市腰越2-1-1
TEL/0467-31-07460
営業時間/8時30分~15時(完売まで)
定休日/不定休
アクセス/江ノ電腰越駅から徒歩約4分
■こまち市場 風凛(ふうりん)
三崎漁港から直接買い付ける魚介の新鮮さ、美味しさで評判の料理店。ワカメしゃぶしゃぶ一人前880円
住所:神奈川県鎌倉市小町1-1-1
TEL:0467-24-7971
営業時間:ランチ11時〜15時、ディナー16時30分〜22時30分(L.O.21:45)
定休日:無休
アクセス/JR鎌倉駅東口から徒歩約1分、エキスト鎌倉 2F
文・写真/原田 寛
1948年 東京生まれ。1971年 早稲田大学法学部卒業。日本全国の古都や歴史ある町並みを中心に撮影を続け、鎌倉の歴史と文化・自然の撮影をライフワークとしている。鎌倉風景写真講座を主宰し後進の指導にもあたる。作品集は『鎌倉』『鎌倉Ⅱ』(ともに求龍堂)『四季鎌倉』(神奈川新聞社)『花の鎌倉』(グラフィック社)など多数。