文・写真/中妻美奈子(海外書き人クラブ/スウェーデン在住ライター)
世界でも珍しく完全ロックダウン(封鎖)をしていないスウェーデンは、ヨーロッパ近隣諸国だけでなく、アメリカ大統領からも新型コロナウィルスへの対応が緩すぎると非難を受けている。しかし実際には、海外メディアが指摘するように集団免疫を目指して放置してあるわけではない。国のパンデミック対策の責任を担う公衆衛生当局が多方面に渡る自粛勧告を出しており、ロヴェーン首相も「ウィルスのコントロールは国民一人一人にかかっている。国民全員が責任を持って当局の勧告に従い行動すれば蔓延をふさげられる」と当局をサポート、国民の支持を煽っている。違いと言えば、日本と同じく自粛勧告のみであって、規制ではなく法的措置が取れないことだ。従って外出自粛をしない国民に罰金が課せられたりすることはなく、警察が見張っているようなこともない。距離をとったテーブル席であればレストランで食事も可能だ。
もともと国に対する信頼の厚いスウェーデン人。お天気が良くなって少しルーズになることはあっても基本的に自粛している人がほとんどだ。毎年大勢の人が集まるストックホルムの桜の公園も今年は驚くほどひっそりとしていた。毎年旅行に出かける人が多いイースター休暇。今年は4月中旬だったが、スキーリゾートも自主的に閉鎖を決め、ほかの国内の観光地もまったく人手がなかった。当局の勧告に従って街に留まっていた人が多かった証拠だ。
その当局の勧告の一つが自宅勤務。自宅から仕事ができる人は自宅から作業するようにということで、スウェーデンの大手会社は3月の半ば頃からホワイトカラー全社員を自宅勤務にしているところがほとんどだ。高校、大学もすべてオンライン授業に変換されている。社会機能を支える仕事に就く人の為に公共交通機関は避けるようにとの勧告もあるので通勤ラッシュアワーのバスや電車もこの通り、ガラガラだ。ただ、他国と違いマスクを付ける必要がないのでしていない人がほとんどなのが注目に値する。
デジタルインフラが整っているスウェーデンでは98%の国民がインターネットに接続できる環境にあり、95%が実際使用している(2019年The Swedish Internet Foundation統計)。買い物だけでなく、確定申告や年金の手続きからお医者さんとの会話まですべてがオンラインで済むので自宅を離れなくてもあまり生活に不便を感じない。自宅勤務のデスクは色々な場所に置かれ、キッチンを占領する人もいれば自分の自宅オフィスを作る人もいる。家中を移動して立ったり座ったり、ベランダに出てみたりと体に負担がないよう工夫しながら長時間労働をこなしている人も多い。
とは言っても、さすがに自宅勤務3週間を過ぎた頃からちょっと会ってビール飲んでくだらない話がしたいよな、というアフターワークへの願望が募ってきた。そこで登場したのが会社のウェブミーティングツールを使ったヴァーチャルAW(アフターワーク)。各自飲み物やおつまみをウェブカメラの前に持ち込み、飲み食いしながら雑談するわけだ。さすがに会話の中心がコロナウィルスになることは避けられないが、ビールの味比べをしてみたり、お互いに面白かった記事やビデオをシェアしてみるなどウェブツールが大活躍。やがてお酒が入るにつれ、変装してみたり、楽器を持ち出して演奏してみたりと楽しそうな光景が自宅のソファや書斎で繰り広げられている。毎週末このVAW(ヴァーチャルアフターワーク)をしている人たちもいて、コロナ前よりソーシャルの時間が増えている感さえある。リモート勤務が通常になっている昨今、コロナ禍の後でも自宅勤務をする人が増えるのではないかとの予測があるが、このVAW習慣が続くことがあっても不思議ではない。
文・写真/中妻美奈子
2000年よりスウェーデンの首都ストックホルム在住。現地企業で広報担当の仕事をする傍ら、海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)として日本の媒体に執筆、寄稿、写真提供をしている。