文・北野令子(ドイツ在住ライター/海外書き人クラブ)

ドイツ・バイエルン州の小学校が、いっせいに“コロナ休暇”という名の(休校ではなく)自宅学習になってから、8週目に入った(2020年5月5日時点)。そのうち2週間は、イースター休暇という“本当”の休暇だったので勉強しなくてもよかったのだが(ドイツの小学校では休暇中に宿題は出ない)、残りは、毎日、自宅学習をしなければならない。言わずもがな、小学校は義務教育なので、自宅学習は“義務”。“しなければならない”のだ。

コロナ禍でバイエルン州の全幼稚園・学校は3月16日より閉鎖された。撮影/北野令子

コロナ禍でバイエルン州の全幼稚園・学校は3月16日より閉鎖された。 撮影/北野令子

州都ミュンヘン市内西部に位置するズードリッヒ・アウフファーツアレー小学校のクラスでは、毎週、担任から、その週の曜日ごとの学習取組表がメールで保護者に送られてくる。自宅にない教材を使うときは、ドロップボックスやグーグルドライブなどのストレージサービスにデータがアップされ、それを各自がプリントアウトしたり、保護者代表の家の玄関先に設置された大箱に担任がプリントを入れてそれを取りにいったり、と各クラスがさまざまな方法をとっている。

教科書は借り物で、担任がプリントアウトしたプリントを授業で使う

何せ急に休校が決まったため、学校にいつも置きっぱなしになっている教科書や副教材を、ほとんどの子どもたちが自宅へ持って帰れなかった。ドイツの小学校では、教科書は借り物であり、担任がプリントアウトしたプリントを授業で使うのが主なので、普段、手元には宿題以外何もないのである。そこで、当初3週間は、自宅学習のために大量のデータをプリントアウトしなければならず、プリンターのない家庭や、その量の多さから不満も出たが、休校期間の延長が決まると、担任が教材を各家庭や保護者代表の家に届けてくれた。

3年生の週の学習取組表。図工や英語もある。撮影/北野令子

3年生の週の学習取組表。図工や英語もある。 撮影/北野令子

日々の課題は、教科書やワーク、アプリ、ビデオなどを使って勉強する。予定表にはっきりと、どれが“義務”の課題か書かれており、教科では「算数」「国語」「生活」が義務で、「宗教」「図工」「音楽」「英語」「体育」が任意。そのほかに、もっと勉強したい子どものための課題も提供されている。取り組む時間は特に決まってはいない。終わった課題を提出する機会はほとんどなく、保護者や児童自身が自分で答え合わせをする自習形式が中心だ。

任意とはいえ、音楽では、曲と歌詞が送られてきたものを覚えたり、図工では、やり方を画像で見ながら作ってみたり。体育は、あるプロのバスケットボールクラブが毎日幼稚園生や小学生のために日替わりで提供しているトレーニングビデオを見ながら取り組むようになっている。子どもたちにとっては良い気晴らしとなっているようだ。

3年生の図工。作り方が画像で紹介されている。

3年生の図工。作り方が画像で紹介されている。

1年生の図工の課題。「折り紙で花を折る」と「てのひらで鶏を描く」撮影/北野令子

1年生の図工の課題。「折り紙で花を折る」と「てのひらで鶏を描く」 撮影/北野令子

生活の課題「昆虫についてプレゼン用のポスターを作る」(3年生)。撮影/北野令子

生活の課題「昆虫についてプレゼン用のポスターを作る」(3年生)。 撮影/北野令子

もちろん、子どもが低学年の場合は、毎日、親の手助けが不可欠だ。3年生にもなると、アプリでの学習はひとりでもできるが、まだタブレットなどの端末を使うには小さすぎる1年生では、紙でのアナログ教材を中心に学んでいる。毎日の課題を遅滞なくこなしていくには、親にも負担がかかる。できるだけ担任も親の負担を減らすように試行錯誤していると聞くが、1年生はまだアルファベットをひとつずつ習っている最中であり、親が在宅勤務のあいまに、手取り足取り教えなければならないのは仕方のないことだろう。

イルカ・ランズマン=クロップさん提供

イルカ・ランズマン=クロップさん提供

姉妹ごとに課題の成果表を作成。親もすべてを管理するのにひと苦労だ。(クレジット)イルカ・ランズマン=クロップさん提供

姉妹ごとに課題の成果表を作成。親もすべてを管理するのにひと苦労だ。 イルカ・ランズマン=クロップさん提供

休校後2か月が経ったにもかかわらず、いまだ模索中なのが、オンラインのライブ授業だ。各家庭のIT環境が異なるので、参加できない人も出てくる。使用できる端末がない、もしくは兄弟がいて端末が足りない家庭には学校が貸し出す、という案が2週間前に出たが、その後進展はない。そのため、担任から「授業に参加しなくても成績には影響しない」との通知が出された。

小学校最終学年の4年生は、卒業試験が目近に迫ってきている

小学校最終学年の4年生は、卒業試験(日本の中学入学試験にあたる)が目近に迫ってきているので、毎日10時から1~2時間、マイクロソフトの「ティーム」を使って授業を受けている。ただし、これも全員というわけではなく、たとえば緊急用の学童保育に通っている児童たちは、設備の関係で受けられていない。3年生のあるクラスでは、週に1回1時間程度、ITに詳しい父親の協力を得ながら、「ティーム」を通して参加者でクイズをしている。また1年生では、1クラスを3つに分けて、8人ずつ「スクールフォックス」というソフトウェアを使用して、1週間に1度1時間のライブ授業を行っている。各クラス、使用するソフトや内容はさまざまで、担任の采配によるところが大きいようだ。

毎日オンライン授業のある4年生。筆者友人提供

毎日オンライン授業のある4年生。 筆者友人提供

クイズでクラスメイトと交流する(3年生)。撮影/北野令子

クイズでクラスメイトと交流する(3年生)。 撮影/北野令子

喫緊の課題は、担任やクラスメイトとの交流をどうするか。4年生を除けば、週1回1時間のオンライン授業以外、交流はない。端末がない子どもは、もう8週間も会っていない。勉強は自習、先生にチャットで質問できるクラスもあるが、そもそもチャットやメールで質問できる低中学年がどれくらいいるだろう。さらには、質問したとしても、待てど暮らせど先生から返事が来ないことが多いのである。

2020年5月5日午後のバイエルン州の決定によると、5月6日から制限が大幅に緩和される。公園の使用が許可され、小学校4年生は5月11日から、小学1年生は5月18日からの登校となった。小学2~3年生は6月中旬からになる模様。引き続き、対人距離1.5mと知人訪問は制限されるが、ビアガーデンは5月18日から、その他レストランはその1週間後から再開されるとのこと。小学校再開が現実的となり、在宅勤務の傍ら、教育の義務を自宅で果たすのはあと少しとなりそうだ。

文/北野令子
ドイツ・ミュンヘン在住ライター、ビールマイスター。出版社に勤務後、2005年に渡独。ミュンヘン工科大学でビールマイスターの資格を取得。ドイツやビールの情報を中心に、各誌に寄稿している。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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