文・写真/御影実(オーストリア在住ライター/海外書き人クラブ)
ウィーンは、乗り物好きの天国。魅力的なフォルムのトラムや、電気バス、セグウェイから馬車まで、日本では見かける機会の少ない、さまざまな乗り物が一堂に会しています。
今回は、そんなウィーンの特徴的な乗り物を、公共の交通機関、観光用、自転車から船まで、一挙にまとめてご紹介します。古さや伝統を残しつつ、進化を続けるウィーンの乗り物の世界。車体の歴史、住民と観光客の棲み分け、環境への配慮など、様々な観点からお楽しみください。
●公共の交通機関
ウィーンを走る公共の交通機関は、地下鉄、トラム、バスの三種類があります。それぞれにファンも多く、歴史と最新テクノロジー両方の魅力たっぷりです。
ウィーンの地下鉄路線には、19世紀末ハプスブルク時代から続く駅舎が数多く残り、歴史が市民のインフラの一部になっていることを感じさせます。(参照:過去記事「謎の地下礼拝堂から皇帝専用駅舎まで、ウィーンのユニークな地下鉄の駅と路線(オーストリア)」)
市電に関しては、1950年代製造の旧型車両が鉄道ファンに人気な一方、バリアフリーの新型や、最新型のフレキシティ(Flexity)など、時代の流れを体現したような三種類の車両が走っています。
観光客の行きかう旧市街を走るバスは、電気自動車。客待ちの合間に充電している様子が見られ、その静かで小さい車体は、住民に親しまれています。
他にも、南のバーデンへ向かう近郊トラム「バードナーバーン(Badner Bahn)」や、乗っているだけで主要な建物が見回せてしまう、観光客向け環状線トラム、ヴィエナ・リング・トラム(Vienna Ring Tram)など、色とりどりのさまざまな乗り物に出会うことができます。
観光都市ウィーンでは、公共の交通機関以外にも、観光客の足となる乗り物が豊富にあります。
●観光馬車フィアカー
ウィーンに最も特徴的なのが、フィアカー(Fiaker)と呼ばれる観光用馬車。ハプスブルク時代にタクシー代わりに使われていましたが、ほかの都市で馬車が淘汰されていく中、ウィーンでは観光用として生き残り、今でも街並みに欠かせない、独特の蹄の音を聞かせてくれます。
動物愛護や観光保護の流れから、近年は公共の交通機関やフィアカーに加えて、新しい乗り物をよく見かけるようになりました。次は、そんな新世代の乗り物たちをご紹介します。
●新世代の観光用乗り物
ウィーンでは最近、観光客用に自転車型タクシー(Faxi)や人力車、セグウェイ、オールドタイマー型の電気自動車などが、街角に並び始めました。
人力車や自転車型タクシーは、馬車と違って特定の客待ちスポットはなく、自由にお客さんを乗せることができます。大家族の旅行スタイルを好む、アラブ系の観光客に特に人気だそうです。
また、セグウェイの公道での走行が許可されているウィーンでは、専用ツアー会社が複数あり、救急隊員などが業務で乗っている姿も見かけます。
観光用乗り物の最新トレンドは、ハプスブルク時代末期のオールドタイマー。レトロな車体に似合わず、最新型の電気自動車ですが、ウィーンの街並みによく溶け込んでいます。
人力車や自転車タクシー、セグウェイや電気自動車は、公共の交通機関や観光馬車とはそれほど競合しませんが、利用者のニーズや、環境保護、動物愛護などの、個人の好みに合った選択肢の一つとなり、旅のスタイルの多様化につながっています。
●貸自転車と電動スクーター
近年「シェアリングエコノミー」が話題になっていますが、ウィーンでは2003年からシェアリングバイクが市民の足として活躍しています。
ウィーン市が提供している貸自転車サービス「City bike」は、街中のいたるところに駐輪場があり、観光地から観光地までの移動にとても便利。おまけに環境にやさしく安価ですので、観光客にも多く利用されています。
乗り捨て型のレンタル自転車サービスは一年で廃止となったウィーンですが、電動スクーターのサービスは各社がしのぎを削っています。アプリをダウンロードし、近くにあるスクーターを探しての利用となるため、観光客には多少ハードルが高いかもしれませんが、すでに地元民の足として定着しつつあります。
●ドナウ河の船で国境越え
ウィーンから最も近い首都は、スロバキアのブラティスラバ。電車やバスで行くこともできますが、せっかくなので、ドナウ河を高速船ツイン・シティ・ライナー(Twin City Liner)で下ってみませんか?
船着き場は、ウィーンの旧市街からすぐ。2019年からは新しい船体も導入され、たった1時間15分で、お隣の国まで遊びに行けます。
ドナウ河の雄大な自然や、国境近くの古城や廃墟などの絶景も楽しみつつ、甲板の風を楽しむのも一興です。あっという間の国境越えの旅、ぜひ一度体験してみてください。
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ウィーンを走る様々な乗り物、いかがだったでしょうか?歴史と伝統ある街ながら、毎年最新の車体が登場し、街並みにアクセントを添えてくれます。乗り物ファンにも見逃せない、ウィーンの交通機関、ぜひ滞在時には、乗り心地を試してみてください。
文・写真/御影実
オーストリア・ウィーン在住フォトライター。世界45カ国を旅し、『るるぶ』『ララチッタ』(JTB出版社)、阪急交通社など、数々の旅行メディアにオーストリアの情報を提供、寄稿。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。