文/塚田沙羅(ロンドン在住ライター)

イングランドの東端に、約180年前に発見されたという貝殻で装飾された地下洞窟があります。その名も「シェル・グロット(Shell Grotto=貝の洞窟)」。イギリスの重要な歴史的建造物として登録されています。

観光地としての知名度はあまり高くありませんが、好奇心をそそるミステリアスなスポットです。今回はこの洞窟の詳細についてお知らせします。

貝殻を使ったモザイク装飾

東イングランドにあるケント州の中でも、さらに東端の海沿いの町・マーゲイト。ロンドン中心部から車で2時間、または鉄道で1時間半ほどで行くことができるこの街の一角に、シェル・グロットがあります。

地下2m未満と浅い部分に位置するシェル・グロットは、185平方メートルと小さめの洞窟。内部の壁や天井は計460万枚もの貝殻を用いた装飾でびっしりと埋め尽くされ、ぱっと見は異様に感じられます。

太陽のようなシンボル

ハートマークのような装飾

彩色はされておらず、貝殻1つ1つが規則的に貼られ、ところどころ花や太陽に見えるマークやハート型のシンボルが象られています。全体的にモザイクのような装飾が施された、芸術的な空間が広がっているのです。

奥のドーム状になっている部屋では、このようにドーム部分の高い天井もすべて貝殻に覆われ、その中に太陽光が差し込む様子は幻想的ですらあります。

謎に包まれた洞窟の起源と用途

この洞窟の発見にまつわる逸話はいくつかありますが、有名な説として、1835年にある少年が水鳥用の池を掘っている途中に偶然発見したというものがあります。その3年後には、少年の父親によって名所として公開され、町の人々を驚かせました。それまで地図にも載らず、全く知られていない空間だったのです。

1932年にはこの洞窟がオークションにかけられたこともありましたが、発見から現在に至るまでずっと個人が所有しており、現在の所有者の名前は明らかにされていません。1973年には国の重要歴史建造物に指定され、2000年代に大規模な調査、整備、クリーニングが行われました。

しかしこの洞窟は、誰がいつ、何のために作ったかは明らかになっていません。その起源や使い道についてはこれまでに多くの説が生まれ、議論が交わされてきました。古代の神殿だという説、秘密結社の集会場所だったという説、密輸業者の隠れ家だったという説などがあります。

富裕層が作った建造物なのか?

使われている貝は、カキ、ムール貝、ザルガイ、ツブ貝の一種、カサガイなどイギリスでとれる品種であることがわかっていますが、いつの時代の貝殻なのかは判明していません。1700年代に富裕層の間で貝殻を使用した建造物を建てるのが流行したことから、この時代のものなのではないか、という見方が強いようです。

もし富裕層がこの洞窟を作ったのだとしたら、自分の富や文化的な素養を見せつけるためであり、よりエキゾチックな要素として貝殻を使用したと考えられます。しかし、この洞窟は農地の下に位置しており、その土地が大きな地主に所有されていた記録もありません。なぜ富裕層は、目立たない地下、そしておそらく他人の土地に自慢の洞窟を掘ったのでしょうか。

また、この洞窟の建造にはかなりの人員と期間を割いたに違いありませんが、仮に1700年代に作られたとして、1800年代の発見までの短い間に忘れ去られてしまうものなのかという疑問も残ります。

このように、確証のある説は未だ存在せず、今でもこの洞窟については議論が続いている状態です。

ギフトショップでは貝殻で作られたピンクの恐竜がお出迎え

現在はそのユニークな見た目から、知る人ぞ知る観光地となっています。入口にはギフトショップも設けられており、貝で作られた雑貨やお土産を持ち帰ることもできます。長年解けない謎を保ち続けているこの奇妙な洞窟、英国旅行の際はぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

【Shell Grotto】
住所:Grotto Hill, Margate CT9 2BU

文・写真/塚田沙羅
ロンドン在住のライター。海外書き人クラブ所属。芸大から出版社を経てフリーに。イギリスの文化や生活、アートについてさまざまな媒体で執筆。

 

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