文/塚田沙羅(海外書き人クラブ/ロンドン在住ライター)

ロンドン西部の高級住宅街として名高いケンジントンエリアには、ホランド・パークという公園があり、天気の良い日は多くの人で賑わいます。

そのちょうど中心部に、「Kyoto Garden(京都庭園)」という本格的な日本庭園があることは、あまり知られていないでしょう。

この記事では、英国と日本のつながりの証とも言える、この庭園の魅力についてお伝えします。

日本人の美意識が表れた庭園

京都庭園入口

京都庭園は、1991年に日本と英国の長年の友好の証として、京都市から贈られたものです。この庭園建設は、英国のジャパンソサエティ設立100周年を記念したジャパンフェスティバル1991の一環であり、京都造園業界と京都商工会議所が提携して実現しました。

庭園内は、色とりどりの鯉が泳ぐ大きな池を中心に、綿密な設計のもと配置された各種植物や木、石造りの灯篭や滝などで構成されています。一歩足を踏み入れると、いきなり日本のわびさびの世界に迷い込んだような、不思議な感覚を覚えます。

池にかかった石橋からは、短い滝を眺めることができます。低い段々を持つ階段状になっており、そこを水が爽やかな音をたてながら流れ池に落ちていく様子は何とも趣があります。撮影スポットとしても人気で、多くの人が橋の上で足を留めます。

園内には鹿威しもあり、情緒あふれる空間となっている

木や植物は日本の庭園と同じように、植物の自然な姿を生かしながら丁寧にトリミングされており、日本人の繊細な美意識が余すことなく生かされています。春には色とりどりの花が一斉に咲き、庭園はカラフルな顔を見せます。冬には緑も少なくなり少し寂しい景色になりますが、それはそれで四季の趣を感じられ、日本人にとってはなじみ深く感じられます。

この繊細な技術が生きる京都庭園では、広大かつ大胆とも言える作りの英国の公園との対比がはっきりと感じられ、日本人の自然に対する向き合い方を改めて発見できることでしょう。

孔雀やリスなど動物たちとも触れ合えるかも?

ホランド・パーク内では、珍しく野生の孔雀が自由に園内を歩き回っています。自然繁殖も行われており、年々その数は増えているそうです。

孔雀たちはしばしばこの京都庭園内にも入ってきます。石の灯篭や、淡い緑の植物で構成された素朴な風景には、孔雀の鮮やかな羽根がよく映えます。日本風の空間に美しい孔雀が悠々と歩いている様子は、エキゾチックながら風雅な組み合わせです。

また、園内には大きな尻尾を持つリスや、水鳥など、数多くの動物たちが暮らしています。すべて野生の動物ですが、人間に慣れている個体も多く、かなり近くまで寄ってきてくれることもあります。

東日本大震災のメモリアルも

京都庭園内にある小路を行くと、Fukushima Memorial Garden(福島庭園)というごく小さな別公園へ出ます。別の入口を持っていますが、京都庭園と中でつながっています。

福島庭園入口

福島庭園は、2012年に英国の東日本大震災被災地支援への感謝の証として建設されました。中は石と木々が配置されたシンプルなスペースで、庭園そのものに特徴があるというよりは、メモリアルとしての役割が大きいようです。

英国の支援に感謝の意を表す天皇陛下のお言葉を刻んだプレートも設置されています。

日本から遥か離れた場所で和の文化を伝えるこの京都庭園を、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

ホランド・パーク自体も、広大な敷地に林が広がる自然豊かな公園なので、散策するのにぴったりの場所です。この他、パーク内にはカフェや新設されたデザイン・ミュージアムなどがあり、併せての観光もおすすめです。

文・写真/塚田沙羅
ロンドン在住のライター。海外書き人クラブ所属。芸大から出版社を経てフリーに。イギリスの文化や生活、アートについてさまざまな媒体で執筆。

 

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