撮影:中村庸夫

取材・文/編集部

去る11月21日~23日の3日間の行程で、豪華客船『飛鳥Ⅱ』で行く「歌舞伎クルーズ」というスペシャルな企画が行われた。今回は、その模様をお伝えしよう。

*  *  *

乗船場所は、横浜の大さん橋国際客船ターミナル。みなとみらい線「日本大通り」駅から徒歩10分ほどで到着する。潮の香りを感じつつ、次第に『飛鳥Ⅱ』の威容が見えてくるにつれ、船旅への気分が高まってくる。

受付でチェックインして乗船証を受け取り、手荷物を預けたら、さあ乗船だ!

乗船後はすぐに客室に入れる。『飛鳥Ⅱ』はほとんどの客室がオーシャンビュー。ベランダ付きの部屋も多い。さっそく窓をあけて外気を招き入れる。今日から明後日の朝までの2泊3日、ここが我が家になる。

デスクには今回の目玉、歌舞伎の船上公演の案内とチケットが用意されていた。

出港前に、デッキで避難訓練。部屋ごとに割り当てられた救命ボートの下に集まり、スタッフから万が一の際の行動や、救命胴衣の使い方などを教わる。

夕闇が迫る横浜港。いよいよ出港の時間だ。

出港を知らせる銅鑼を叩きながら、スタッフがデッキをめぐる。

出港の際はデッキでスパークリングワイン がふるまわれ、セイルアウェイパーティとなる。ドリンクを片手に、清々しい出港風景を満喫できる。

デッキには、今回のクルーズの主役、中村芝翫(なかむら・しかん)ファミリーの姿も。

撮影:斉藤美春

今回の歌舞伎クルーズは、八代目中村芝翫さんと、そのご子息の四代目中村橋之助さん、三代目中村福之助さん、四代目中村歌之助さんの親子四人同時襲名記念の公演を兼ねていた。本格的な歌舞伎の公演を船上で堪能できるという世にも稀なる企画であり、歌舞伎製作・興行の松竹と『飛鳥Ⅱ』による初めてのコラボレーションクルーズであった。

出港後の夕食前には、メインダイニングに隣接するアスカプラザにて、四人そろっての鏡開きが賑々しく行われ、集まった乗客から大きな喝采を浴びた。樽から汲み出された香り高い清酒は、『飛鳥Ⅱ』オリジナルの白木の升に注がれ、乗客にふるまわれた。

撮影:斉藤美春

翌朝、客室からデッキに出ると、そこは朝日が降り注ぐ大洋の上。船体が大きいだけに、ほとんど揺れは感じない。遠くに島影が見える。穏やかな波の上を、船はすべるように進んでいる。気分は爽快だ。

朝食会場へ向かうついでに、船内を散歩。船首のデッキからは、この船が大海原をつき進んでいることが実感できる。クルーズでしか味わえない、雄大な眺めだ。

朝食後には、船内でのダンスパーティにも使われる「クラブ2100」にて、中村橋吾さんによる「歌舞伎体操」が開催された。橋吾さんの指導のもと、歌舞伎独特の動きをまねすることで、楽しみながら正しい姿勢や体力が身につけられる。

「さあ、いっしょに見得のポーズをとってみましょう!」歌舞伎俳優の演技の迫力を目の当たりにして、参加者も大いに盛り上がっていた。この俳優との距離感の近さこそが、「歌舞伎クルーズ」の大きな魅力である。

撮影:斉藤美春

船内には随所に「歌舞伎クルーズ」ならではの設えが。探して歩くのも楽しい。

続けて「ハリウッドシアター」では、中村橋之助さん、中村福之助さん、中村歌之助さんの兄弟らによる「歌舞伎講座」が開催された。初めての方にも歌舞伎の世界に興味を持ってもらえるようにと、長男の橋之助さんが中心となって、様々な角度で歌舞伎についての基本を指南。夜の公演が待ち遠しくなる。

撮影:斉藤美春

昼食は、京都南座に隣接する老舗「松葉」さんの総本家にしんそばを堪能できた。さらに松葉謹製の幕の内弁当も付いて大満足。歌舞伎クルーズならではの趣向だ。

ダイニング入口には、京都の聖護院八ツ橋さんから贈られた、特製のお菓子が飾られていた。モチーフはもちろん、中村芝翫ファミリーの四人同時襲名だ。

撮影:斉藤美春

そしてティータイムにも京都銘菓の八ツ橋が饗された。

撮影:斉藤美春

午後はゆったりと船内ですごす。船内には中村芝翫ファミリーの写真パネル展示があるほか、歌舞伎に関する展示コーナーなども設けられ 、夜の船内公演への気持ちを高めてくれる。

そしていよいよ「ギャラクシーホール」にて歌舞伎公演がスタート!

中村芝翫さんの挨拶を皮切りに、まずは中村橋之助さんによる『操り三番叟』(あやつりさんばそう)が披露された。

能楽の儀式曲である「三番叟」(さんばそう)を基にした作品で、糸繰りの人形が三番叟を踊るというユニークな趣向のもの。操り人形として軽快に踊る様は、まるでパントマイムのようでもあり、誰が見ても楽しめる演目だ。人形遣い役の後見・中村橋吾さんとの息もぴったりの名演技であった。

撮影:斉藤美春

続いては、中村福之助さんと、中村歌之助さんによる『飛鳥薫獅子船出』(あすかおるししのふなで)。歌舞伎舞踊の人気作品『石橋』(しゃっきょう)を基に、今回の歌舞伎クルーズでの上演を記念して書き下ろされたオリジナル演目で、ここでしか見られない貴重な舞台となった。舟長と舟子による掛け合いと、起伏に富んだ長唄の演奏に続き、兄弟による息の合った勇壮な獅子の狂いが見事であった。

撮影:斉藤美春

そして最後は、中村芝翫さんによる『雨の五郎』。仇討ち物語の主人公として有名な曽我五郎を取り上げた長唄の舞踊は見応えたっぷり。荒若衆の血気盛んな様子と、郭通いの色気と華やかさを持ち合わせた五郎を、芝翫さんが見事に演じきった。

撮影:斉藤美春

歌舞伎公演を堪能した後は、メインダイニングで夕食。揚げ胡麻豆腐に始まり、ふぐひれ吸い、鮪と車海老のお造り、穴子の一本握り、秋茸と和牛の朴葉づつみ焼き、そして銀杏むかごご飯に香の物と留椀。最後のデザートは飛鳥Ⅱの特製最中という献立であった。料理長が丹精込めた繊細な味わいの数々で、しみじみと滋味深いディナーであった。

撮影:斉藤美春

お寿司を盛る笹の葉にも、細やかな気配りが彫り込まれていた。お土産に持って帰るお客さんもいらっしゃるとのこと。

撮影:斉藤美春

以上、豪華客船『飛鳥Ⅱ』で行く2泊3日の「歌舞伎クルーズ」の模様をご紹介した。もちろんご紹介した以外にも、船上で用意されたさまざまなアクティビティ、カジノやシガーバー、ピアノの生演奏が楽しめるバーラウンジ、そして日本のクルーズ船ならではの開放感あふれる展望風呂など、『飛鳥Ⅱ』ならではの洗練された優雅な船旅が存分に楽しめる。期間も短く、3日目の朝には出港した横浜に戻ってこれるショートクルーズなので、クルーズ初心者にもうってつけだ。

それに、何と言ってもこの「歌舞伎クルーズ」の醍醐味は、演者との距離を近くに感じられること。船内の意外な場所で、あこがれの俳優さんとすれ違って声をかけられるというのは、ファンならずとも感動の体験だ。

次回開催は未定ながら、もしまた開催されるようであれば、ぜひ乗船してみてはいかがだろうか。

【クルーズ旅行についてのお問い合わせ先】
電話/0570-666-154(郵船クルーズ)
※「飛鳥Ⅱ」のクルーズの詳細情報や申し込みはこちらです。
https://www.asukacruise.co.jp

取材・文/編集部

 

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