以前「サライ.jp」でもご紹介した、豪華客船「飛鳥Ⅱ」で行く初の《文楽クルーズ》が、2016年12月20日~22日に行われました。この画期的なクルーズに参加した「サライプレミアム倶楽部」会員の山本文宏さん・由美子さんご夫妻に密着し、その模様についてリポートします。今回は2日目の模様をお伝えいます。(1日目の模様はこちら)
※参考記事:「洋上で文楽を観賞する特別な船旅!豪華客船「飛鳥Ⅱ」で行く2泊3日の「文楽クルーズ」
<21日 日の出6時41分>
《文楽クルーズ》2日目となる21日は見事な快晴! 日の出の時間にはオープンデッキから船上での朝日を待つ方、大浴場のグランドスパで朝日と入浴を楽しむ方など、思い思いの一日がスタートです。また、冬とは思えぬ暖かさで、プールで泳ぐ方の姿もいるほど。これもクルーズならではの過ごし方です。
朝食と昼食はメインダイニングでの和食・リドカフェ&リドガーデンでの洋食ビュッフェ。それ以外にも、軽めのモーニングやティータイムのスイーツなどが用意され、時間を気にせずに食事ができます。
なかでもおすすめは、昼食時間後にオープンするグリルコーナーでいただく「飛鳥Ⅱ」人気のメニュー、日替わりのハンバーガー。焼きたてジューシーなお肉とふわっとしたバンズが好相性で美味しい! 「飛鳥Ⅱ」乗船後すぐに、このハンバーガーを目指す方もいるとか。
今回は文楽がメインのクルーズですが、船旅らしい様々な催し物も用意されています。いくつかを覗いてみましょう。
「トナカイのオーナメント作り教室」木のパーツを組み合わせてトナカイのオーナメントをつくります。細かい作業もありながら、参加の皆さん、スムーズに木のパーツを組み立てていきます。完成品は思い出とともにお持ち帰りです。
「スカットボール大会」スティックでボールを打ち、点数がつけられたゾーン(穴)にボールを入れて、得点を競います。即席のチーム対抗戦で行う競技に、一喜一憂しながら大盛り上がり。クルーズ仲間の絆も深まる(?)楽しいゲームです。
<21日 人形講座、太夫・三味線講座 9時30分~・10時45分~>
公演前に行われた文楽の三業(人形・太夫・三味線)を解説する講座。多くの方が集まり、文楽とは、文楽の魅力とはについて、事前学習しました。人形についてはその仕組みや3人で操る人形の動きなどが紹介され、人形遣い3人の息ぴったりの操作に会場内には感嘆の声が溢れます。乗客の方も人形の遣い方を体験し、俗に、足遣い20年、左遣い10年の修業が必要といわれる厳しい世界を垣間見ました。
「人形が、人間が普通に歩くように見えるためには、膝から出す。というのを聞いて、リハビリの先生の言葉を思い出し、とても納得しました。まず膝を出すように頑張って歩きましょうと言われているので」と山本さん。お二人とも、公演に向けて理解が深まったと頷き合っていました。
続く太夫と三味線の講座も会場内を巻き込んでの解説。大声で太夫の台詞を真似したり、文楽の三味線独特の音色の違いや表現方法を学んだりと、普段での公演では経験できないことばかりでした。
公演に先立ち、プレスにはリハーサルも公開されました。劇場とは異なる舞台づくり、動きの確認などが綿密に行われます。
さらに吉田玉男さんにお話をお伺いしました。2015年に吉田玉女から二代目吉田玉男を襲名してから1年以上、大きな名跡を背負いながらも、ご自身でも二代目としての力がついてきたと語る玉男さん。この文楽クルーズという画期的な企画に多くのお客様が集まってくださったことが心から嬉しいと話します。
「今回の演目は船上ということもあり、まず、水にちなむものという視点で選びました。さらに、文楽を初めてご覧になるという方のために人形の動きや物語がわかりやすいものと、考えました。舞台が普段とは異なりますので、動きに制約がありますが存分に楽しんでいただけると思います。また、私たち演者・スタッフ一同、飛鳥Ⅱのクルーズを満喫しています。昨晩のディナーはとても美味しかったですね」
<21日文楽公演 18時~・20時~>
いよいよ待ちに待った公演本番です。まず第一部は『日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら) 渡し場の段』。紀州道成寺に伝わる伝説をもとに、僧・安珍に恋慕した清姫が大蛇となって後を追うという名場面です。
川を渡りたい清姫と安珍から川を渡らせないようにと言われている渡し場の船頭のやりとり。そして美しい清姫が、鬼の形相の首(かしら)の大蛇に早変わりし、川の流れを表す浪幕のなかで荒れ狂います。
「鬼になった、蛇になった、角が生えた、毛が生えた……」と船頭は逃げていきます。大蛇となった清姫の嫉妬心を表現するような激しい三味線の音とともに、大掛かりな仕掛けと見せ場。文楽演出の醍醐味です。
第二部は『ひらかな盛衰記 逆櫓(さかろ)の段』。演目の前に物語の背景である源平の戦いや、主人公である木曽義仲の忠臣・樋口次郎兼光について紹介されます。
舞台の見せ場は船頭となり逆櫓という技術を学び、義経を討つ機会をうかがっていた樋口次郎兼光と敵方の船頭との大立ち回り。「ヤーシッシ」という太夫の掛け声のなか、吉田玉男さんが遣う人形は、なんと舞台の前方、セットの前に移動しての大アクション。普段は隠れている足遣いもあらわになるという何とも面白い試みでした。
終演後、山本さんご夫妻に感想をうかがうと、まず興奮して、感激して胸がいっぱいというお答え。
「舞台からの圧力がすごかったです。人形、太夫、三味線一体となった舞台の迫力、まさに伝統芸能の極みですね。言葉を失いました。まるで人形に魂が乗り移っているようでしたね。清姫の早変わりには驚きました」(山本さん)
お二人とも東京や大阪に文楽を観に行きたくなったと、すっかり文楽に魅了された様子でした。
舞台後、吉田玉男さんも「お客様からの大きな拍手をいただき、感激しました。ぜひ、文楽クルーズを2回、3回と続けたいですね」と興奮気味に話してくれました。
<21日ディナー 17時30分~・19時45分~>
2日目のディナーは文楽クルーズの特別和食コース。そして日本酒の銘柄も「文楽」、その他「清姫」「駒若丸」という名のカクテルも用意されました。
鮪や雲丹のお造り、ワカサギの衣揚げ、スズキの奉書焼きなど盛りだくさんです。昨夜が洋、今日は和。何から何まで和洋折衷となりました。
<22日帰港 9時>
「飛鳥Ⅱ」は横浜港へと近づき、好天に恵まれた波穏やかで心地よいクルーズも終わりを迎えます。豪華客船という非日常の世界のすばらしさ。まして今回は文楽クルーズという特別な船旅。乗客の皆さん、ひとりひとりが忘れえぬ思い出を胸に、下船です。
船のなかという限られた空間ですから、文楽の演者さんが隣のテーブルで食事をされたり、エレベーターの中でお会いしたりと、演者さんたちとの距離がとても近いというのも《文楽クルーズ》ならではの体験といえるでしょう。
伝統芸能は決して近寄りがたいものではないと教えてくれる、文楽にとことん親しめる《文楽クルーズ》。次の開催が早くも待ち遠しいです。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。
【クルーズについてのお問い合わせ先】
郵船クルーズ 電話/0570-666-154
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