■クイーン・エリザベス船内案内と伝統の大西洋横断

今回の主役でもある『クイーン・エリザベス』は全長294m、全幅32.25m、高さ64.6m、乗客定員2068名の大型豪華客船です。2010年10月11日に行われた命名式(船に名前を授ける式典)では、英国のエリザベスII世女王陛下が名付け親を務め、新しい海の女王として華々しくデビューしました。

1グランドロビー

それでは、『クイーン・エリザベス』の船内を案内しましょう。

船の中心的存在が1階から3階まで吹き抜けのグランドロビーです。正面には、1940年に就航した初代クイーン・エリザベス号を描いた寄木細工の壁画が飾られています。時には弦楽四重奏やハープの演奏も行われる優美なロビーは、古き良き豪華客船時代を彷彿させてくれます。

2図書室

その隣は、上階と下階を螺旋階段で結んだ2階建ての図書館です。船上とはいえ小説、歴史書、海事書籍、写真集など、蔵書の数は約6000冊を誇ります。司書に「日本語の本はありますか?」と尋ねると、約50冊の日本書籍が並んだJAPANコーナーに案内してくれました。

3エリザベス女王胸像

広々としたダンスフロアのあるクイーンズルームは、エリザベスII世女王陛下の胸像(2008年に引退した客船『クイーン・エリザベス2』のクイーンズルームにあったもの)がある伝統を受け継ぐ格調高い部屋です。午前中はフェンシング教室、午後はエレガントなアフタヌーンティー、そして、夜は舞踏絵巻が繰り広げられる社交場と化します。

4劇場ロイヤルコートシアター

船上エンターテイメントの殿堂は、約800人収容の3階建て大劇場「ロイヤルコートシアター」です。毎晩、ミュージカルショー、音楽コンサート、マジック、アクロバット等が日替わりで上演され、船上の夜を盛り上げます。 この劇場の特徴は、「洋上のオペラ座」と表現したくなるほど絢爛豪華なデザインと、16のロイヤルボックスがあること。ロイヤルボックスシートは普段は無料で使えますが、特別なショーの夜はシャンペン付きの優雅な観覧を提供するため有料のプライベートボックス席となります。

このほか、レストラン、ナイトクラブ、スパ、シガーバー、ショッピングアーケード、3つのプール等々、長い船旅にも対応できるバラエティに富んだ船内施設が揃っています。

2014年の世界一周で『クイーン・エリザベス』が最初に乗り出したのは英国サウサンプトンからアメリカのニューヨークに向かう9日間の大西洋横断でした。

実は、大西洋定期航路を初めて開始したのは『クイーン・エリザベス』の運航会社キュナード・ラインでした。1840年7月4日、英国政府の認可を得たロイヤルメールシップ(郵便物を運ぶ船)として『ブリタニア号』が英国リバプール港を船出し、カナダのハリファックスと、アメリカのボストンへ向かいました。この大西洋定期航路の初航海には創業者サミュエル・キュナードとその娘の姿がありました。そして、郵便物はもとより、63人の乗客と、新鮮なミルクを得るために生きた牛も乗っていたそうです。

それ以降、ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸を結び、人流と物流の要となる大西洋航路は客船たちのひのき舞台となりました。そして、英国、ドイツ、フランス等のヨーロッパの大国が国の威信をかけた客船を造り、贅沢さとスピードを競いあう中で豪華客船黄金時代を築き上げていきました。しかし、飛行機が出現すると、人々はより速い移動を求め、1950年代以降、大西洋の乗客輸送の主役は、客船から旅客飛行機へと変わっていったのです。

5エリザベスボウル

このような時代を知り尽くしたキュナード・ラインの船であり、客船史を語り継ぐ芸術品が至る所に飾られた『クイーン・エリザベス』にとって大西洋横断は、特別な思い入れのある得意な航路といえるでしょう。

船内では、「キュナードボウル」(黒と白の服を着る舞踏会)、「ロンドンボウル」(英国国旗にちなんだ物や色を身につける舞踏会)、「エリザベスボウル」(ビロードのドレス等、エリザベス王朝時代の格好をする舞踏会)などの服装をテーマにした大舞踏会(ボウル)が開催されました。上の写真は「エリザベスボウル」のときの様子です。豪華客船黄金時代にタイムスリップしたような華やかで、懐古調に満ちた大西洋横断となりました。

一方、新世界アメリカを目指す大西洋上で、現代的なアメリカ宇宙科学の風を船上に運んだのがNASA(アメリカ航空宇宙局)に30年も在籍したアメリカのスペースシャトル飛行士エレン・ベーカーさんの講演でした。

1981年、医療士官としてNASAに入局したベーカーさんは、89年にスペースシャトル・アトランティス号で初飛行し、宇宙飛行士の一員となりました。92年にはコロンビア号の航空機関士として搭乗し、さらに95年、コマンダー(司令官)として搭乗したアトランティス号の特別任務では初のロシア宇宙ステーション・ミールとのドッキングに成功したそうです。

船上の講演では、このような彼女の体験談に加え、スペースシャトル内での睡眠や食事の取り方、健康維持のための運動法など、めずらしい宇宙生活を愉快な写真を使って解説してくれました。

6自由の女神像

そして、1月18日午前7時、大海を走り続けた『クイーン・エリザベス』の前方左側に自由の女神が見え始めました。 アメリカ独立100周年を記念し、仏・米友好の印としてフランス民衆の募金を基に造られ、1886年に完成した女神像は、1984年にはユネスコの世界文化遺産にも登録されています。自由と新天地の象徴として有名な自由の女神が高く掲げる松明と、7つの突起をもつ王冠(7つの海と大陸の自由を現す)に、まだ光がともる夜明け前のしじまの中、『クイーン・エリザベス』は静かにその像の前を通過しました。

7船上から見るワンワールドタワー

やがて、船の前方右側には天空に伸びる、ニューヨークで一番高いビル「ワンワールドトレードセンター」(上写真)が登場しました。高さは、アメリカ独立宣言の年1776年に因んだ1776フィート(約541m)。9.11アメリカ同時多発テロでワールドトレードセンターは崩壊してしまいましたが、跡地に鎮魂の思いも込めた再建計画が始まり、その一つとして建造されたのが「ワンワールドトレードセンター」です。

更に進むと1931年に誕生したエンパイアステートビルも見えてきました。この歴史ある建物は、まさに、ニューヨーク港に居並ぶ豪華客船たちを眼下に見据え続けてきた生き証人。大西洋横断を果たした『クイーン・エリザベス』は、豪華客船の古き良き時代を知るエンパイアステートビルに迎えられ、新大陸アメリカの大都会ニューヨークに到着したのでした。

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