写真・文/鈴木拓也
大阪市民に「住吉さん」、「すみよっさん」と親しみをこめて呼ばれ、初詣には200万人が訪れる、大阪の一大神社が住吉大社である。
京都の著名な神社に目が行きがちな観光客にとっては、あまり目立たないところかもしれないが、訪れる魅力は十二分にある。今回は、大和時代から人々の崇敬を受けてきたこの古社の見どころを紹介したい。
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住吉大社の御鎮座は、神功皇后摂政期の古代にさかのぼる。平安時代には、国司が巡拝するさいに第一に訪れる「一の宮」とされ、朝廷よりたびたび奉幣にあずかった。
また、上皇や貴族らの熊野詣が毎年のように行われた院政期は、京都から熊野にむかう途次で住吉大社も参拝された。爾来、当社は貴人・庶民の区別なく尊崇され、現代においても大阪の総氏神となっている。
住吉大社の境内は、「反橋」という名の太鼓橋から始まる。横から見れば、文字通り太鼓のように丸く、上り下りは少々きついが、ここを渡るだけでもお祓いになるそうで、ぜひ渡っておきたい。
反橋を渡り終えると、鳥居に出迎えられる。「角鳥居」といって、両柱が四角柱(ふつうは円柱)の珍しい形で、元和年間に建立された。
鳥居と門の先に鎮座するのが、「本宮」だ。第一本宮から第四本宮の4宮あり、互いにほぼ同形であるが、祭神は本宮によって異なり、住吉三神と神功皇后が祀られている。いずれも本殿、渡殿、幣殿(拝殿)からなる構造で、本殿は国宝に、渡殿・幣殿は重文に、それぞれ指定されている。
住吉大社の重文建築物やみどころは、本宮にとどまらない。第一本宮の裏手には、1607年造営の南北高蔵と呼ぶ板校倉造の宝蔵があり、右手の門を抜けたところには、「日本三大舞台」のひとつとして知られる石舞台があり、いずれも重文に指定されている。
大阪随一の神社だけあって、摂社・末社も数多い。それら全てを本稿では紹介しきれないが、特筆すべき摂社・末社を以下に挙げておきたい。
本社4宮と同じ住吉造りで、重厚感のある「大海(だいかい)神社」(重文)の祭神は、豊玉彦と豊玉姫。豊玉彦は、記紀神話において山幸彦がなくした釣り針を探して、海の宮にたどり着いたときの海神で、その娘が豊玉姫である。古代は、海岸がもっと近くにあったことを、ほのかに思い起こさせる。
「招魂社」(重文)は、もとは神仏習合時代の1619年に造営された護摩堂であり、現在は住吉大社に縁の深い神職や偉業者らを祖霊神として祀っている末社である。
江戸時代の人々は、境内に生える古ぶるしい楠の木の霊をたたえて、信仰の対象としていた。やがて、根元に設けられていた社にお稲荷さんを祭るようになり、「楠珺社」(なんくんしゃ)となった。商売繁盛のご利益があるということで、参拝者が途切れることがない。
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以上、大和時代から人々の崇敬を受けてきた住吉大社の見どころをご紹介した。
住吉大社は格式高い総氏神であるが、一方で「商売発達・家内安全」がかなうとされる「初辰まいり」が人気の庶民的な側面もある。初辰とは毎月最初の辰の日のことで、この日に楠珺社ほか3末社を参拝し、それを4年間(48回)続ければ、満願成就となる。
畿外から観光で来られた方は、回数にこだわらず、気軽な気持ちで境内を回られるとよいだろう。
【住吉大社】
■住所:大阪市住吉区住吉2丁目9-89
■開門:6:00(4~9月及び他月1日と初辰日)、6:30(10~3月)
■閉門:16:00(外周門)、17:00(御垣内)
(正月・住吉祭の期間は開閉門時間が異なる。御守授与・祈祷受付は9:00より)
■電話:06-6672-0753(9:00~16:30)
■公式サイト:http://www.sumiyoshitaisha.net/
■電車アクセス:南海本線「住吉大社駅」から東へ徒歩3分、南海高野線「住吉東駅」から西へ徒歩5分、阪堺線「住吉鳥居前駅」から徒歩すぐ
取材協力/住吉大社
写真・文/鈴木拓也
2016年に札幌の翻訳会社役員を退任後、函館へ移住しフリーライター兼翻訳者となる。江戸時代の随筆と現代ミステリ小説をこよなく愛する、健康オタクにして旅好き。