兜沼付近で、車窓左に利尻島が姿を現した。黒くなっているのはサロベツ原野。このほかにも各所で利尻が姿を現す。今回これほどあちこちで利尻が姿を見せていることをあらためて発見。山の姿が愛おしくなる。
このまま利尻の姿をもう少し眺めていたい。できれば抜海南稚内のハイライト地点まで。夕闇と競走するように、ディーゼルカーは進む。窓を開けたら、霧のような雨が降っていた。
薄暮のサロベツ原野をひた走る。車内には、途中駅から乗ってきた学生がひとり。列車はクマザサをなびかせながら北上する。
抜海駅を過ぎて、列車はいよいよ最後のハイライトにさしかかる。左手の車窓には,日本海とそこから突き出る利尻富士が青い空にそびえる。
日没から時間が経っているので、半ば諦めていたが、深く蒼い海と空に挟まれて日本最北の富士が姿を現した。
眼前には日本海が広がる。
東シナ海から始まって、瀬戸内海や太平洋や日本海、関門海峡や津軽海峡など、これまでいくつもの海を車窓から眺めてきたが、今はその締めくくりだ。
南稚内駅に停車すると、途中駅で乗車してきた学生が下車していった。
再び車内は自分ひとりに。鉄道が乗客に支えられているように、鉄道の旅も乗客に支えられていると実感する。今回の旅でも実に多くの人たちに出会い、支えられた。
車窓には、稚内の町の光が入り出す。あと一駅。
やっと到着、と言う気もするが、正直なところ、このまま終着駅に着くのが惜しい。
最後の車内は誰もいない。たったひとりのラストトレインだ。
そして、汽車は夜の稚内駅に到着した。