文・写真/杉﨑行恭(フォトライター)
阿寒湖から北見にむけて釧北街道(国道240号線)をクルマで走っていると、森に囲まれた『道の駅あいおい』があった。まちなかの道の駅は、いまや農産物直売施設と化しているが、延々と続く樹海の先に現れた道の駅は、まさにオアシスの感がある。そこで休憩していたとき、ふとみるとシラカバの先に国鉄色(赤とクリーム色)のキハ22が停っていた。なんと、そこには道の駅ならぬ本物の駅があった。
いまから30年以上も前、北海道の北見地方に相生線というローカル線が走っていた。石北本線の美幌駅から分岐した相生線は、この場所まで36.8㎞の線路を伸ばしていたのだ。大正時代に建設が始まった相生線はやがて美幌と釧路を結ぶ『釧美線』となるはずだったが、阿寒岳に阻まれて延伸計画は放棄され、終点の北見相生駅で終わる盲腸線として昭和60年(1985年)まで走っていた。
道の駅あいおいは、かつての相生線の終着、北見相生駅に隣接して設けられたのだった。駐車場からシラカバ林をぬけて駅の方に歩くと、草むらの中に線路が残っていた。その先には国鉄色のキハ22があり、昭和20年台の客車スハフ42,と除雪車や貨車、緩急車も展示されている。相生線が廃止されたあとも『相生鉄道公園』として、駅舎と駅構内が保存されていたのだ。しかも駅舎にはカフェが店開きしている。
木造平屋の駅舎は切妻屋根に玄関をつけた簡素なもの、駅からは大通りが一直線に伸びている。その昔はにぎわったであろう駅前も夏草に覆われ、何軒もの廃屋がたたずんでいた。駅の待合室には歴代駅長の額と、廃止された昭和60年の時刻表が掲げられていた。当時は1日6往復の列車が走り、運賃表には北見枝幸(天北線)や羽幌(羽幌線)といった今はなき路線や駅も書かれて、懐かしい風景がよみがえる。
それでも駅舎はきれいに整備され、かつてのホームでは『くるみの森』というカフェも店開きしていた。聞くと「2016年の春から自家焙煎の珈琲店を開いています」という。古民家ならぬ古駅舎カフェではナチュラルなスコーンが名物で、釧北街道を走るライダーたちの人気の店になっていた。ホームのカフェテリアで美味しい珈琲を楽しんだあと、駅構内の探検に歩く。残された線路をたどっていくと茂みのなかに小鉄橋と朽ち果てた車庫も残っていた。
夏空の元、偶然見つけた廃線駅舎は奇跡のように素敵なカフェに変身していた。そして、国鉄再建法による第一次廃止対象路線として北海道内で二番目に早く廃止された相生線だが、地元の鉄道に対する想いは駅舎に色濃く残っていた。カフェで休憩したあと駅から続く廃線跡をたどってみた。しかし、これより先は農地になっていて、30年前の鉄道の痕跡はほとんど残っていなかった。
【北見相生駅】(国鉄相生線)
■所在地: 北海道網走郡津別町字相生
■駅開業:1925年(大正14年)11月15日
■廃止:1985年(昭和60年)4月1日
■アクセス:北見からクルマで約1時間
文・写真/杉﨑行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』『廃線駅舎を歩く』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。
『廃線駅舎を歩く』
(杉﨑行恭著、定価1500円+税、交通新聞社)
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