文・写真/ハントシンガー典子(海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター)
オアフ島、ハワイ島、マウイ島、カウアイ島……だけじゃなかった! まるでタイムスリップしたかのように本物の「オールド・ハワイ」体験が味わえると、ハワイ通がこぞって訪れるのが、モロカイ島です。一方で、ネットに最新情報がほとんどなく、日本人のみならずアメリカ人にとっても未知の島と言えるかもしれません。運命に「呼ばれる」人だけが引き寄せられるという神秘の島、モロカイとは一体どんな場所なのでしょうか?
生命力がみなぎるパワーストーン
妊活を経験したことがある人もそうでない人も、「ハワイのバースストーン」と聞けば、オアフ島のクカニロコを思い浮かべるのではないでしょうか。王族の出産場所だったオアフ島屈指のパワースポットのひとつで、ハワイ語で「マナ」というスピリチュアルなエネルギーが宿るとされています。日本ではここが「子宝に恵まれる」ご利益スポットとして認識され、女性芸能人を筆頭に妊活女子が足を運んでいましたが、実は分娩のための石。ハワイアンが子宝祈願に訪れる場所は別にありました。
その知る人ぞ知るパワーストーンは島の中央部から北、パラアウ州立公園に鎮座します。昔は王族のみが入れた聖域で、園内には不敬な行動を慎むよう警告する注意書きも。駐車場から霧に包まれる幻想的なアイアンウッドの林のトレイルを抜けると、丘の上にファリックロックと呼ばれる、男根の形をした巨岩が出現します。
古代ハワイで尊ばれていた神に通じる聖職者、カフナの預言で、「女性がお供えをし、ひと晩ここで過ごすと妊娠する」と告げられた女性たちが、実際に子宝に恵まれたと伝わります。これが、ハワイアンも認めるパワーストーン。受胎、安産、はたまた豊穣、自己発展を願う信仰の対象となっています。
この岩にまつわる神話も残ります。豊穣をつかさどるナナホアが少女に見とれていると、妻のカワフナが少女に嫉妬。怒ったナナホアに突き落とされたカワフナは岩に姿を変え、ナナホアもまた岩になったとのことです。それが、このファリックロック、別名カウレオナナホアだと言います。
ところどころ苔で覆われた岩に囲まれ、足を踏み入れるのをちゅうちょしてしまう独特な雰囲気。南国、ハワイでありながら木陰のひんやりした空気が清々しく、ヒーリング効果も抜群です。偶然か必然か、何度訪れてもこの一帯だけが空模様もほかと違うような気がしました。
駐車場に戻り、反対側のトレイルにも足を向けてみましょう。10分ほど歩くと、断崖絶壁の上に石垣が組まれたカラウパパ展望台に出ます。ここからは、かつてハンセン病患者への非人道的な隔離政策が行われていたカラウパパ半島の全景が見渡せます。この悲しい歴史を持つ半島は、カラウパパ国立歴史公園として保護されていますが、その地理的条件から現在も車ではアクセスできず、許可を得てツアーで入るにも時期や手段は限られます。しかも入園できるのは、16歳以上の健康な人のみ。
展望台から眺めるカラウパパ半島は、一瞬で霧に包まれてはまた現れ、光で満たされた瞬間、神々しいまでに輝いて見えます。半島を出ることを許されず、はかなく散った多くの命を思わずにはいられません。
神々の息吹を感じられる島
スピリチュアル好きが虜になるモロカイ島。その理由は何でしょうか? ひとつには「カフナの島」と呼ばれる歴史が関係しているのかもしれません。カフナは前述のファリックロック然り、古代ハワイでは多くの神託で王族や悩める人々を支えてきました。そのカフナを輩出してきた島が、このモロカイだと伝わります。
中でも高名なカフナが、ラニカウラです。その霊力は絶大でしたが、呪いをかけられないように慎重に隠していた自身の排泄物をラナイ島の敵に盗まれ、排泄物を燃やされて死に至ります。ラニカウラの亡骸は、悪用されないよう誰にも見つからない場所に隠されました。それが、島の東端、プウ・オ・ホク牧場内にあるククイの森と言われ、今も興味本位で近付いてはいけない聖域です。ククイは、モロカイ島を象徴する木で、ハワイの州木でもあります。
そこからさらに東へ進むと、ポリネシア人の定住が始まった地として知られるハラワ渓谷が。その歴史は7世紀にまでさかのぼります。フラ発祥の言い伝えもあるマナにあふれた秘境は、島の中でも強力なパワースポット。
ここは女神ラカの伝説も知られます。ラカはフラやカヌーの守り神であると同時に、森と癒やしの女神。さらにインスピレーション、繁栄、家内安全などをつかさどるとも言われていますので、多くのエネルギーをもらえそうです。
モオウラ滝の水底に潜む大トカゲ、モオの伝説も有名です。滝までは私有地を通るため、許可を持つガイドと一緒にハイキング・ツアーでのみ訪れることができます。島外からの観光客の多くはハイキング・ツアーに参加するためにハラワ渓谷を訪れますが、地元の人が憩うのはハラワ・ビーチ・パーク。廃墟化したハラワ・パークの先に、広い駐車場も完備します。
渓谷に抱かれるハラワ湾は、思わず深呼吸したくなるほど開放感いっぱい。海水浴、日光浴、ピクニックを楽しむ家族連れや若者たちの姿が見られます。海を見下ろす場所にはヘイアウもありました。ヘイアウとは、前述のカフナや王族が神に祈りを捧げる儀式の場、祭壇を指し、ハワイアンにとって神聖なものです。そう、ハワイの多くのパワースポット同様、ここでは観光客は必ずしも歓迎されているわけではありません。節度ある行動を肝に銘じたいものです。
島中心部からは東端に行く道は1本だけで、約45キロに及ぶハワイ最長のサンゴ礁が発達する海沿いを通ります。沿岸にはかつて巨大フィッシュポンド(養魚池)が造られ、ハワイアンのタンパク源を供給する聖なる場所でした。そのため、モロカイ島は「アナ・モモナ(太った地)」と呼ばれていたほど。石垣で魚を囲い込むというサステナブルな先住民の知恵を引き継ぐため、近年はフィッシュポンドを復元させる取り組みも進んでいるそうです。
道中、セント・ジョセフ教会にも立ち寄りました。前述のカラウパパ半島に隔離されたハンセン病患者のために尽くし、自ら罹患して命を落とした、ベルギー出身のダミアン神父により1876年に建てられた小さな教会です。ダミアン神父の遺体はいったん祖国に送られましたが、右手の遺骨が再び戻され、墓地に埋葬されています。
クリスチャンでなくても、この地に立つと聖ダミアンのスピリットとつながるような安心感を覚えるから不思議。ハワイ諸島を人体のエネルギーをつかさどるチャクラにたとえた場合、モロカイ島は愛と癒やしを意味する「第4のハート・チャクラ」に当たるそうですが、まさにダミアン神父の人生そのものですね。
アロハ・アイナの精神で生きる人々
中央部にある島最大の町、カウナカカイの西には、約1000本のココナッツ植林地跡であるカプアイワ・ココナッツ・グローブも。夕暮れ時を狙い、隣接するキオエア・ビーチ・パークへ出かけてみてください。今も数百本残るヤシの木とサンセットのコントラストが美しく浮かび上がる絶景を拝めます。このエリアもまた、王族が保養地とした神聖な場所でした。
サンセットの名所と言えば、西海岸のパポハク・ビーチも有名。約5キロにわたるハワイ州最大規模の白砂ビーチで、ワイキキに砂が運ばれたこともある美しいビーチですが、端から端まで人っ子ひとりいないことに改めて驚きます。
モロカイ島には信号がなく、渋滞とは無縁。野生の孔雀や七面鳥、鶏、鹿の群れが横切り、夜には大きな蛙がそこら中を這う、都会で考えられない環境です。古代ハワイアンの血を引く人々が今も静かに暮らし、「アロハ・アイナ」(ハワイ語で大地への愛)を合言葉に、観光化の波から島を守っています。
占星術によれば、2024年はこれまでのような物質への執着を手放す「風の時代」への移行が本格化する年になるそう。「何もないハワイ」をモロカイ島で味わう旅は、古い観光スタイルから脱する絶好の機会とも言えるかもしれません。ぜひパワースポットをめぐり、島の大地から愛のエネルギーをチャージしてみてはいかがでしょう。
玄関口のホオレフア空港へは、ホノルルからのフライトで約30分。日帰りツアーも催行されています。ただし、欠航や遅延がよくあるのでご注意を。
ハワイ観光局オフィシャルサイト:https://www.gohawaii.jp/ja/islands/molokai
ハワイアン航空オフィシャルサイト:https://www.hawaiianairlines.co.jp/island-guide/molokai
ハワイアン・アイランズ・ドットコム(英語):https://hawaiianislands.com/molokai
文・写真/ハントシンガー典子(アメリカ在住ライター)
東京での出版・広告会社勤務を経て、アメリカ・シアトルに移住。現地の日系タウン誌編集長職を10年以上務めるほか、「サライ.jp」「@DIME」などにアメリカのライフスタイルや旅の記事を寄稿する。米企業のローカライズにも従事。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。