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真珠湾の裏から発車する旧オアフ鉄道のトロッコ列車に乗る【ハワイ楽園鉄道2】

文・写真/杉﨑行恭

ハワイ楽園鉄道2

レンタカーで「どこだ、どこだ」と探しまわった真珠湾北側、エワという町の片隅にハワイ鉄道協会(Hawaiian Railway Society)のレールヤードがあった。古びた線路を渡ると、椰子の木立の先に赤や緑に塗られたオモチャのような小型蒸気が見えてきた。なんとなく『秘密基地』の雰囲気もただよう。きっちり都市計画されたワイキキからやってくると、廃材を集めたフェンスの曖昧な空間が心地良い。今日はオアフ島唯一の保存鉄道が運営するトロッコ列車の運転日なので、早めに集まった少年たちが空き地でキャッチボールをしていた。

ハワイ楽園鉄道2

ハワイ鉄道協会は1947年に運行を終えたオアフ鉄道の施設を保存活用するため1971年に発足したボランティア団体だ。この車両基地のあるエワからコオリナまでの約20kmの線路を自分たちで修復、曜日を決めて列車を運行している。しかし世界のリゾート、ハワイにありながら観光的な華やかさはほとんどない。野趣あふれる軍用ディーゼル機関車けん引の客車(これも軍用貨車の改造)列車でささやかに運転しているのだ。

さて乗車の前に「ハワイ州政府から年間1ドルで借りている」とボランティアのおじさんが言う車両基地を見学する。足元には軌間914ミリ、JRの線路よりやや狭い軌道が扇状に伸びていた。そこに旧車両があるわあるわ、朽ち果てた木造ボギー客車に油タンク車や木造貨車、赤錆びた蒸気機関車に修理中のディーゼル機関車がずらりと並んでいる。鉄道ファンにはわくわくする風景。アメリカ人は使い終わったものは放置する。チマチマ再利用するよりどかんと新しいものを作るのが好きなのだ。おかげでこんなお宝がまるごと残った。

ハワイ楽園鉄道2

そうこうしているうちにカランカランとハンドベルが鳴り、きっぷの販売が始まった。屋外の長椅子にまたがった係員に15ドルを渡し、チケットに日付印を押すだけ。なんともユルい出札風景。駅舎のなかにはスーベニアショップもあり、ハワイ鉄道協会のTシャツなども売っていた。すでに乗降場には『ネイビー・ウイットコム』の45トンスイッチャーが腹に響くエンジン音を立てている。これはその名のとおり海軍の構内入替え用機関車だが、1950年代のアメ車風フロントグリルがかっこいい。しかしかなりの年代物と見た、聞けば「使える機関車は3両ある」と自慢する。

ハワイ楽園鉄道2

そして「オール・アボード!」のかけ声とともに乗車開始。機関車の先端に2人のフラッグマンを乗せたトロッコ列車はブワーっと汽笛を鳴らして発進した。客車も貨車改造のトロッコ列車なので車輪からの揺れや振動も尻に響く。座席は長椅子が背中合わせに側面を向くスタイル、横向きに座った目の前をエワ車庫の旧型車両群が動いていった。ちなみに機関車のフラッグマンは踏切でクルマや人を交通整理する役目、だから踏切に遭遇するたびに飛び降りて赤旗で道路を遮断する。つまりそれができるほど列車はのろい。

ハワイ楽園鉄道2

さて列車は南国のトロピカルなムードに包まれて走る…なんてことはなく、ゴミ処理場や廃材置き場、町工場の作業場といったダウンタウンの裏町をほふく前進するように進む。当たり前だが「ハワイにもこんなとこがあるのだ」という社会勉強になって面白い。現代社会ではロードサイドは美しく飾るがバックヤードはあまり見せない。でも産業鉄道だった路線にはこんな場所が似合う。

線路が向かうオアフ島の北西部は、どちらかといえばメジャーな観光地はなかった。それでも30分ほど走ると周囲は荒涼とした原野になり、その先におしゃれな『アウラニ・ディズニー・リゾート』が見えてきた。ようやく現れたハワイっぽい眺め、聞けばディズニー直営の滞在型リゾートホテルなのだとか。しかし列車はその玄関を素通りして岩山を避けるように曲がる、突然車窓に青い海がひろがった、5両編成の客車で歓声が上がる。

ハワイ楽園鉄道2

海岸地帯を行くトロッコ列車にシーブリーズが心地よく吹き抜ける。ハワイ諸島には常に東風が吹く、いわゆる『赤道偏東風』で帆船時代はアジアへの追い風となった貿易風だ。山側にカエの発電所が見えてきたら終点のナナクリは近い。ここはオアフ島西岸のワイアナエ・コースト最大の街。でもその折返しポイントに駅はなく、ビーチと道路に挟まれたただの空き地だった。見渡すワイエアナの海はイルカウオッチングの名所なのだという。

ハワイ楽園鉄道2

復路はフラッグマンを先頭客車に乗せてのプッシュ運転だ。まったりと走るトロッコ列車に乗って40分あまり、目の前には掛け値なしのブルーオーシャンが続く。リズミカルな揺れを感じているうちに時差ボケも手伝って、不覚にも長椅子でのびのびと眠ってしまった。おかげで復路の名物、アウラニ・リゾートのカフェに寄る「アイスクリーム停車」に気づかず。駅弁ならぬ「駅アイス」を食いそこなったことは痛恨事だった。

ハワイ楽園鉄道2

【ハワイ鉄道協会(Hawaiian Railway Society)】
91-1001Renton Rd Ewa Hawaii 96706
毎週土曜日の13時・15時エワ発で運転(15時発はアイスクリーム停車あり)
乗車は往復のみ、料金は大人15ドル、12歳以下と62歳以上は10ドル
HP:http://www.hawaiianrailway.com/

文・写真/杉﨑行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。

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