茨城県日立市は春に市内各地で桜が咲き誇る“桜のまち”。その背景には日本の近代産業を支えた日立鉱山と市民の奮闘があった。日立と桜の縁を物語る名所を本誌の三浦一夫編集長が訪ねた。
東京・品川駅から特急「ひたち」で約2時間、日立駅に降り立った本誌の三浦一夫編集長。日立駅は地元出身の世界的な建築家、妹島和世がデザイン監修をしたガラス張りの駅舎だ。構内から眼前に広がる雄大な太平洋を一望でき、「駅そのものが絶景スポットです。自ずと今回の旅の期待が高まりますね」と、早速、惹きつけられた様子。
日立といえば、JX金属や日立製作所が生産拠点を置く日本有数の企業城下町。一方で、豊富な海産物に恵まれ、酒蔵や、日立鉱山に始まる工業都市の面影を残す貴重な史跡が点在する魅力的な都市でもある。
そして、日立は桜のまちでもある。4月上旬に市内各地で桜が開花すると、日立駅から西に伸びる平和通りは約1kmにわたり桜のトンネルが続き、山々ではオオシマザクラやヤマザクラが満開となる。工業都市が桜のまちになった背景には、日本四大銅山に数えられた日立鉱山の歴史と深い関係がある。
山には日立鉱山の史跡と名酒の里。海には名物の鮟鱇(あんこう)ほか豊かな幸が
日立の旅は日立鉱山の象徴である大煙突から始めたい。市街地から宮田川の上流へ向かうと、山の斜面に茶褐色の大煙突が屹立する。
日立鉱山の歴史は、明治38年に実業家の久原房之助(1869〜1965)が赤沢銅山を買収したことに始まる。それまで鉱山は手掘りが主流だったが、久原は削岩機を導入するなど近代化を進め、6年ほどで銅の生産量が全国第3位を誇る一大鉱山へと成長させた。
ところが、製錬所から立ち上る煙に含まれる亜硫酸ガスが農作物に影響を及ぼし始めた。試行錯誤の末、久原は高い煙突を築き、煙を拡散することを考案する。こうして、大正3年に高さ約155.7mという高さの煙突が完成した。
「環境問題と真摯に向き合い、解決に向けて研究を重ねた久原の姿勢や銅山の歴史から学ぶことは多いですね」と、三浦編集長。
美酒を求めて酒蔵を探訪
大煙突の北西には、奈良時代の『常陸国風土記』に登場する古社、御岩神社が鎮座する。水戸徳川家の崇敬を受けた神社で旅の安全を祈願した三浦編集長は、日立鉱山の関係者が愛した少量生産の日本酒があると聞き、十王川の上流に酒蔵を構える椎名酒造店を訪ねた。
今も地元で愛される日本酒「富久心」を入手し、大満足の三浦編集長であった。
この日は太平洋に面した『ひたち湯海の宿 はぎ屋』に投宿。夕食は鮟鱇(あんこう)鍋や地魚など、日立の海の恵みに舌鼓を打った。
御岩神社
茨城県日立市入四間町752 電話:0294・21・8445 拝観料:無料
開門時間:6時~15時(御岩山参拝)、9時~17時(神社参拝・社務所) 無休
交通:JR常磐線日立駅より茨城交通バスで約35分、御岩神社前下車すぐ
【立ち寄り処】山あいの蔵で醸す地酒を買い求める
椎名酒造店
茨城県日立市十王町高原411
電話:0294・39・2041
営業時間:9時~17時
定休日:第1日曜
交通:JR常磐線十王駅よりタクシーで約15分。見学は要予約
【宿泊処】日立ならではの海の幸に舌鼓を打つ
ひたち湯海の宿 はぎ屋
茨城県日立市水木町1-1-15
電話:0294・52・2522
料金:2名1室利用で2食付きひとり2万6400円~ チェックイン15時 チェックアウト10時
交通:JR常磐線大甕(おおみか)駅より徒歩約25分
※この記事は『サライ』2023年4月号より転載しました。