文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

デス・バレー国立公園内の砂丘

2022年11月、米国で最も重要な祝日のひとつである感謝祭に合わせてスティーヴン・スピルバーグ監督の新作映画『ザ・フェイブルマンズ』(The Fabelmans)が全米各地で一斉に公開された。スピルバーグ監督自身の少年時代を描いた半自伝的なドラマである。主人公の少年サミーが生まれて初めて観た映画『地上最大のショウ』(The Greatest Show on Earth)に衝撃を受け、映画作りのとりこになったままで成長するストーリーだ。

スピルバーグ監督ほどではなくても、生まれて初めて劇場で観た映画をずっと覚えている人は多いだろう。筆者にとってのそれは1977年に公開された『スター・ウォーズ』である。大スクリーンに展開される宇宙空間での戦いや「はるか彼方の銀河系」のリアルな(としか思えなかった)異星の風景にはまさしく度肝を抜かれた。

その「スター・ウォーズ」公開第1作(『エピソード4/新たなる希望』)及び第2作(『『エピソード5/帝国の逆襲』)の撮影が行われた場所がカリフォルニア州にあるデス・バレーである。

地球上で最も暑い土地

デス・バレー国立公園では自転車をレンタルすることもできる。日陰のない過酷なサイクリングだ。

デス・バレーは極度に乾燥した暑い気候で知られ、砂漠と塩湖と奇岩がその景観を作り上げている。そこにないものは水と緑だ。温暖多雨な日本の穏やかな自然とは対極のように思える。およそ人の心を癒すような要素はひとかけらもない。

「死の谷」という縁起の悪い地名はゴールドラッシュ時代に開拓者らがこの地に迷い込み、命からがら脱出したときに呟いた言葉が由来だと言われているくらいだ。

デス・バレーには雨はほとんど降らない。年間平均降水量は約60mmということだ。東京のそれが約1,600mmだから、いかに乾いた土地であるかが想像できるだろう。

夏には日中の最高気温は50°C以上に達する日々が続き、冬場でも30°C以上になることも珍しくない。なにしろ地上最高の気温(56.7°C、1913年9月10日)が観測された土地である。そのため夏の間に訪れる人は非常に少なく、冬が観光シーズンのピークになる。

もっとも、世の中には常識では判断できない人もいるにはいる。世界で最も過酷なランニングレースと呼ばれる「バッドウォーター135」はよりによって真夏の時期を選んでデス・バレーを起点にした135マイル(217km)という超長距離を走るものだ。バッドウォーターとはスタート地点の地名である。

2022年7月11-13日に行われた最新大会の優勝者は日本人の石川佳彦選手である。石川選手は2019年の同大会で初優勝し、ゴールした後で現在の奥さんにプロポーズしたことでも、ウルトラランナーの間では世界的に有名な存在だ。

筆者自身は10歳でスター・ウォーズを観た5年後に15歳でデス・バレーを訪れるという幸運に恵まれた。人生観を変える大きな影響を受けたことは間違いない。それが良いことであったか悪いことであったかはまた別の問題だ。

デス・バレー国立公園内の見どころ

バッドウォーターでポーズを取る10代の筆者。アホは死ぬまで治らない

バッドウォーターはその名前に反して、水を目にすることはほとんどない。あたり一面には白っぽい塩湖が広がっているだけだ。海抜は-86メートルで、北米大陸で最も海抜の低い地点なのだそうだ。

それ以外にも公園内には広大な大砂丘(Sand Dunes)やパレットのようなカラフルな岩に囲まれた山(Artists Palette)などの見どころが散在している。この世のものではないような、という形容がけっして大げさではない風景が次々に現れる。

デス・バレー国立公園内の道路
“The Artist’s Pallete” by EmmaSteph is licensed under CC BY 2.0

こうした風景をバックに異星生物やR2-D2のようなロボットが歩いていても不自然ではないように見えるし、『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカス監督も多分そう思ったのではないだろうか。

ただし、今後はデス・バレーが映画の撮影地になることはまずない。国立公園内での商業的撮影に関する規制が厳しくなり、撮影許可が下りなくなっているのだそうだ。

だからぜひ自分の目で見に行くことをお勧めしたい。まるで別世界のような土地でありながら、デス・バレーは都会からさほど遠くに離れているわけではない。ネバダ州とカリフォルニア州との州境に近く、ラスベガスからはたった2時間ほど、ロサンゼルスからでも5時間ほどのドライブで到着することができる。

デス・バレー国立公園公式ウェブサイト:https://www.nps.gov/deva/index.htm

文・角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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