文・写真/バレンタ愛(海外書き人クラブ/現オーストリア在住、前カナダ在住ライター)

南フランス、コートダジュール~プロヴァンス。地中海の美しい紺碧の海と美食、そして穏やかな気候に恵まれる大人気のリゾート地。世界の巨匠とされる多くの画家にも愛されたエリアで、今でも彼らの住んだ家やアトリエ、数多くの作品を集めたミュージアムなどをたくさん見ることができる。そしてそれらの街には、彼らの作品の中に見られる風景が多く残っている。数多くの巨匠たちが過ごした南フランスでは、彼らの作品を目で見るだけではなく、肌で感じられる。巨匠たちの足跡を辿りながら、美しい街々をまわってみよう。

まずはコートダジュールの拠点ともいえる街、ニース。
海岸沿いに約3,5kmの大通りプロムナード・デザングレがあり、オーシャンビューの客室を備えた高級ホテルが並ぶ。夏のバケーションシーズンのビーチは、カラフルなパラソルと観光客で埋め尽くされる。マーケットの出る広場や歴史ある教会が建つ旧市街の散歩も楽しい。ここは空港から街までも近く、レンタカーを借りなくても電車やバスでコートダジュールの他の街にアクセスしやすいので、南フランスの街を回る拠点におすすめだ。

多くのヤシの木が植えられているニースの海岸沿いの大通り、プロムナード・デザングレ

ニースにはこの地で1954年に亡くなったアンリ・マティスの美術館(URL:https://www.musee-matisse-nice.org/en/ 住所:164 Av. des Arènes de Cimiez, 06000 Nice, France)と、人生の後半を南仏で過ごしたマルク・シャガールの美術館(URL: https://musees-nationaux-alpesmaritimes.fr/chagall/   住所:Av. Dr Ménard, 06000 Nice, France)がある。

ニースの街中に建つマティスとシャガール美術館への道案内

どちらの美術館も閑静な地区にあり、シャガール美術館には壁にほどこされたモザイク画や多くの絵画作品が、マティス美術館には絵画作品だけではなく家具などの遺品も展示されている。

シャガール美術館の庭園にあるオリーブの木に囲まれたカフェ
ニースのシャガール美術館で見られる「ヤコブの夢」
(C) Rokus Cornelis, CC BY 3.0  via Wikimedia Commons

またニースから20kmほど離れたヴァンスには、マティスが晩年製作した彼の人生の集大成といわれるロザリオ礼拝堂(URL:http://chapellematisse.fr/、住所:466 Av. Henri Matisse, 06140 Vence, France)がある。内装も外観も比較的シンプルだが、ステンドグラスはカラフルで太陽の光に輝いている。ヴァンスには中世の街が残り、その中に建つ大聖堂にはシャガールのモザイク画もある。シャガールは亡くなるまでの20年間を、ヴァンス近郊の自治体区であるサン=ポール=ド=ヴァンスで過ごしている。

青い空と海の色とのコントラストが美しい白い壁の教会
教会のある場所から見るヴァンスの街並み。遠くには海も見える

ニースから東に約8km離れた所にあるヴィルフランシェ=シュル=メールという街には、小さなサン・ピエール礼拝堂(住所:4 Quai de l’Amiral Courbet, 06230 Villefranche-sur-Mer, France)が建っている。この礼拝堂の中には、多才な芸術家だったジャン・コクトーが手掛けた壁画を見ることができる。中世の街並みが見られる旧市街と、美しい砂のビーチがあり、コートダジュールの中でもゆったりと静かに過ごせる街だ。

16世紀後半からの歴史を持つといわれるサン・ピエール礼拝堂

ヴィルフランシェ=シュル=メールから東に約37km、イタリアとの国境近くにある南国の雰囲気溢れる街、マントンでもコクトーの足跡を見ることができる。市庁舎の「結婚の間」(URL:https://www.menton.fr/La-Salle-des-Mariages、:住所:17 Rue de la République, 06500 Menton, France)の壁にはコクトーの穏やかな雰囲気の作品が描かれている。海沿いに建つ要塞は、彼の作品や遺品も展示するジャン・コクトー美術館(URL:http://www.museecocteaumenton.fr、住所:2 Quai de Monleon, 06500 Menton, France)となっている。かつてモナコ公国に属していた地域でもあり、美しいバロック建築の建物が並ぶ旧市街や、太陽の遊歩道と名の付いた海辺のプロムナードの散策も楽しい。

マントンの市役所内にある「結婚の間」、見学も可能

ニースの西側にも、芸術家達が愛した多くの街がある。

ニースから西に約15kmほど行ったカーヌ=シュル=メールは、ピエール=オーギュスト・ルノワールが1919年に亡くなるまでの約16年住んでいた街だ。アトリエとしても使っていた住居は、今ではルノワール美術館(URL:http://www.cagnes-tourisme.com/fr/decouvrir/musee-renoir/presentation.html、住所:19 Chemin des Collettes, 06800 Cagnes-sur-Mer)となっている。美術作品だけではなく、彼の描いた景色がそのまま残る庭園や、晩年使用していた車椅子、家具が展示されている。

美術館の庭園には彼が描いた景色がそのまま残り、見比べられるパネル展示もある

美術館からは中世の佇まいを残すカーヌ=シュル=メール旧市街が望め、その真ん中には今では美術館となっているグリマルディ城(住所:6 Pl. du Château, 06800 Cagnes-sur-Mer, France)が建っている。旧市街もとても素敵なので、ゆっくりと散策してほしい。

ルノワールが住んだ家から眺める景色。彼も同じ景色を見ていたに違いない

カーヌ=シュル=メールから西に更に10kmほど行ったアンティーブには、14世紀に建てられたグリマルディ城(※カーヌ=シュル=メールにあるグリマルディ城とは別の城)がピカソ美術館(URL:https://www.antibes-juanlespins.com/culture/musee-picasso、住所:place mariejol, 06600 Antibes, France)となっている。ピカソが1946年にアトリエとして使用した場所で、そこで製作し、残して行った作品を主に展示してある美術館だ。

14世紀後半に建てられたグリマルディ家の居城、元々の歴史は11世紀まで遡るという
(C) Tiia Monto, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

美術館には絵画作品だけでなく、彫刻や陶芸品も多く展示されていて、テラスからは美しいコートダジュールの海が見渡せる。すぐ近くには泳げる砂浜のビーチが、そして街には活気あふれるマーケットや、たくさんのお店やレストランが並ぶ素敵な広場もある。

ピカソ美術館になっているグリマルディ城のテラスからの眺め

アンティーブから約7kmほどの所にある陶芸の村、ヴァロリスにあるヴァロリス城内には3つの美術館(URL:https://musees-nationaux-alpesmaritimes.fr/picasso/、住所:Place de la Libération, 06220 Vallauris, France)が入っているが、そこでもピカソの作品が多く展示されている。名画「戦争と平和」の他にも陶芸作品などを見ることができる。城の正面にあるポール・イスナー広場にはピカソ作のブロンズ像「羊を抱く男」(住所:Place Paul Isnard, 06220 Vallauris, France)も建っているので、ピカソ作品をたっぷり堪能したい方は合わせて訪れてみよう。

最後は世界でも有数の高級リゾート地として知られるサン・トロぺまで足を延ばしてみよう。プロヴァンスに入るが、ニースから日帰りでも訪れることができる。今では豪華クルーザーやヨットが停泊し、多くの観光客で賑わう街だが、昔は静かな漁村だった。港のすぐそばにあるラノンシアード美術館(URL:https://www.saint-tropez.fr/culture/musee-de-lannonciade/、住所:2 Place Georges Grammont, 83990 Saint-Tropez, France)では、この街に住んで多くの街の風景を描いたポール・シニャックや、マティスの作品を見ることができる。シニャックの絵に登場する大聖堂の塔や、港沿いの建物はそのまま残っている。街を一望できる城塞や、旧市街地で開催されるマーケットでは、昔の漁村だったころの雰囲気も楽しめる。

ポール・シニャック作「サントロぺの港」この景色が見られる場所に美術館が建つ
Paul Signac, Public domain, via Wikimedia Commons
シニャックの絵の中と同じサントロペの街

プロヴァンスをもっと西にいくとポール・セザンヌの故郷エクス・アン・プロヴァンスや、フィンセント・ファン・ゴッホが愛し多くの作品に残したアルルやサン・レミ・ド・プロヴァンスなどがありそこでも巨匠たちの残した芸術作品や、その中に登場する風景に出会うことができる。美術館にある作品だけではなく、彼らの生きた形跡を感じ、彼らの作品の中にあるものと同じ風景が見られるのも、この南フランス、コートダジュールやプロヴァンスの魅力の1つだと思う。もちろん美しい海や、美味しい食べ物、そしてそれぞれの街の歴史や街並み……など魅力は尽きない。1つの街にゆっくり滞在するもよし、巨匠の形跡を追って街巡りをするのもよし、彼らの作品を見ながら南フランスの美しい街に想いを馳せてみるのもよし。それぞれのやり方で巨匠たちが愛した芸術の世界を楽しんでみてほしい。

文・写真/バレンタ愛 2004年よりオーストリア、ウィーン在住。うち3年ほどカナダ・オタワにも住む。長年の海外生活とトラベルコンサルタントなどの経験を活かし、2007年よりフォトライターとしても多数の媒体に執筆、写真提供している。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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