文・写真/杉崎行恭
南紀の新宮からJR西日本のクルーズトレイン「WEST EXPRESS銀河」に乗った。10月から運行が始まる南紀コースの試乗会である。このコースは起点の京都駅を夜に出発、新大阪駅を経て紀伊半島西岸を走り、早朝に本州最南端の串本を経て新宮まで走る。今回はその戻りの昼行プランだ。
さてこの「WEST EXPRESS銀河」は2020年に運転を開始した「ロングディスタンス(長距離)」を謳う特急で、「多様性・カジュアル・くつろぎ」をコンセプトにした、夜行も可能な寝台(ノビノビ座席)を備えた列車である。基本的に全席指定で、旅行会社(日本旅行)の旅行商品として販売される。あの「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」や「ななつ星 in 九州」といったクルーズトレインとは一線を画す、庶民にも「手が届く」観光列車だ。
ところで筆者のような熟年世代にとっては「銀河」はとても懐かしい列車名だ。かつては東海道本線を走る夜行列車群の「末弟」ともいえる東京〜大阪間を結ぶ寝台急行で、発車時刻が遅く、到着時刻が早朝だったため最終の新幹線を逃した出張族がよく利用した列車だった。平成20年(2008)に廃止されたこの列車名が、JR西日本の観光特急として12年ぶりに復活したのだ。
新宮駅ホームに9時37分入線の「WEST EXPRESS銀河」を見た。その昔は新快速などで活躍した117系電車を改装した6両編成で、全身が「瑠璃紺」という深いブルーで、なんとなく夜目に見た昔の急行「銀河」を連想させた。さっそく車両内部を探検してみよう。
京都方面の先頭となる1号車はグリーン指定席「ファーストシート」で、窓際に沿って向かい合わせのゆったりとしたボックス席が並んでいる。夜行時には各ボックス(8室)が可動式背もたれを倒して一人用寝台になる構造で、これは国鉄583系電車寝台のB寝台下段ベッドを思い出した。ちなみに583系は三段式寝台だったけど。
そして2号車は女性用普通指定席で、14席のリクライニングシートと上下2段の向かい合わせボックス席「クシェット」3室12席を備えている。ちなみに「WEST EXPRESS銀河」にはこのように横になれる寝台があるものの、すべてノビノビ座席扱いで寝台料金は発生しない。
3号車は普通指定席で、これに「ファミリーキャビン」という3〜4名定員の約5平方メートルの半個室が2室備えられている。ここではマットレスを敷きつめることができ、家族で民宿の座敷みたいな使い方ができそうだ。また車端にはフリースペース「明星」があって、大きな窓から車窓風景を楽しめる。
4号車には広大なフリースペース「遊星」があり、開放的な空間と4つのボックス席が昼夜を問わずに利用できる。また5号車普通車は18席すべてが横になれる「クシエット」で、ここもノビノビ座席扱いで利用できる。この5号車には車いす対応のトイレも備えている。
6号車はグリーン個室「プレミアムルーム」で構成。複数名(夜行2名・昼行3名)用個室が4室、1人用個室1室があり、テンキーロックで施錠される。通路を挟んで向かい合わせになる平行四辺形の個室はでっかい窓を独り占めできる贅沢な空間だ。
今回の試乗は昼行なので寝台はセットされてはいなかったが、「クシエット」や「ファーストシート」「プレミアムルーム」「ファミリーキャビン」の夜行時には枕カバーやブランケットなどの寝具も用意されるという。基本的に3~5号車の通路やフリースペースは立ち入り自由だが、1号車「ファーストシート」と女性専用車の2号車には該当の指定席券を持っていないと立ち入りができない。
いずれにしても117系電車は6両編成で約380座席だったが、WEST EXPRESS銀河は最大定員101名(昼行時)と相当に余裕がある造りだ。改造車とはいえ、かなりの「豪華列車」だと思う。
文・写真/杉崎行恭
乗り物ジャンルのフォトライターとして時刻表や旅行雑誌を中心に活動。『百駅停車』(新潮社)『絶滅危惧駅舎』(二見書房)『異形のステーション』(交通新聞社)など駅関連の著作多数。
※杉崎の「崎」は正しくは「たつさき」