日本各地には多くの湧水がありますが、その中で、何故か名水と呼ばれる水があります。

ただ、美味しいというだけではなく、その水が、多くの恵みをもたらし、人々の命に深く関わり、生活を支えてきたからに他ならないからでしょう。それぞれの名水からは、神秘の香りと響きが感じられます。

名水の由来を知ることは、即ち歴史を紐解くことであり、地域の文化を理解すること。名水に触れ、名水を口にすれば、もしかすると、古の人々の想いに辿り着くことができるかもしれません。

歴史ある水を訪ね古都を歩きます。

日本各地の名水を探し訪ねておりますと、幾つかの共通点があることに気づきます。

例えば、神々への信仰に繋がる「御手洗(みたらい)」とか、弘法大師ゆかりの「弘法水」、歴史上の人物の誕生に纏わる「産湯の水」であるとか、茶人ゆかりの「井戸」など。それぞれが、歴史との繋がりが深く興味深く取材をさせていただいております。

名水の名前にしても、その由来を調べるのも面白さの一つで、摩訶不思議な出来事とか、歴史上の事件、人名や地名に由来しているものなど様々で、一つ一つ調べることは「名水の物語」を読んでいるような感じさえいたします。

水はしばしば信仰の対象となり崇められる
水はしばしば信仰の対象となり崇められる

今回、ご紹介する「瓜裂清水(うりわりしょうず)」も、ちょっと面白い名称。「うりわり」と名の付く水は、意外に多く各地に存在しています。使われている漢字をよく見ると「うりわり」の「瓜」は共通していながらも、「わり」の文字は「割」・「裂」・「破」と異なっています。

然るに、水に纏わる逸話はほぼ同じ……「瓜を水で冷やしたところ、あまりの冷たさに瓜がワレた」というものです。となると、文字から連想するに、瓜の「ワレ方」が違っていたということになります。

実は、古都の名水散策で「うりわりしょうず」を取り上げるのは二回目。前回は「一乗谷朝倉氏遺跡の瓜割清水(第14回・https://serai.jp/tour/1028907)」。比較して読んでいただくのも一興かと存じます。

昭和の名水百選「瓜裂清水」の立派な命名板

南北朝時代の高僧ゆかりの湧水「昭和の名水百選・瓜裂清水」を訪ねる

環境庁(現・環境省)によって名水百選(めいすいひゃくせん)が選定され、全国的に名水ブームが広まってから幾久しい感じがいたします。遡ってみますと、1985年(昭和60年)3月に全国100か所の湧水・河川(用水)、地下水が選ばれたのが約40年近く前のこと、その後、2008年(平成20年)6月、新たに「平成の名水百選」が選定されています。それぞれの名水は、重複はなく「昭和の名水百選」「平成の名水百選」と区別して呼ばれます。

しかし、選定された二百にのぼる名水も、実際に水場を訪れてみると周辺環境の維持、保全状況は一様ではありません。そうした名水の姿に差異が生じるのは、やはり地域住民と名水との関わり方に大きな要因があるように思えます。そのことを実感させてくれた名水が、富山県砺波市庄川町金屋地区に湧き出す「瓜裂清水(うりわりしょうず)」でした。

環境保全が整っている水場には多くの動植物が生息している
環境保全が整っている水場には多くの動植物が生息している

砺波市指定文化財に選定されている「瓜裂清水」の謂れやエピソードについては、水場にある説明板に以下のように記載されています。

約600年前の南北朝時代、本願寺五世で井波瑞泉寺の開祖である綽如(しゃくにょ:1350~1393)は、杉谷山(岩黒の奥山)に庵を結んでいた。上人が岩黒のこの地で休んだ際、馬の蹄が突然沈み、そこから湧水が湧き出した。
上人の徳を慕う里人が献上する瓜を冷やしたところ、その冷たさに瓜は自然に裂けた。その冷たさとおいしさに上人は大変満足し、この清水を「瓜裂清水」と命名したという。
瓜裂清水は、伊波と金屋岩黒村、庄金剛寺を経て水戸田方面に通じる、上使街道の傍らにある。また地元民にとっても、身近な湧水として利用されてきた。
昭和12年(1937)、有志によって綽如上人御旧跡保存会が設立され、東屋と不動明王石像などの石仏が設置された。

とあります。

瓜裂清水の由来と歴史について記載された説明板
瓜裂清水の由来と歴史について記載された説明板

これによれば「瓜裂清水」の周辺が整備されたのは、今から80年以上も昔のこと。水場の周りは清掃が行き届き、周辺環境の保全は良好な状態であることが直ぐにわかりました。写真撮影のかたわら、散歩で通りがかった方や取水に来られた地元の方へお声を掛け「瓜裂清水」についてお聞きしてみました。すると、次のようなお話を聞くことができました。

「この水(瓜裂清水)も数年前(4、5年前と思われる……)までは、随分と荒れておりましてね。先人に対しても、地域としても余りに恥ずかしいから、地域の有志で月一回は清掃をするようになっています」とのこと。

また、「名水百選に選ばれた頃は、訪れる人も多かったですが……それも昔のことで、今は訪ねて来られる人も少なくなりました……」とも。

清掃が行き届いた瓜裂清水の周辺

それでも、水場が綺麗なのは地域の方々が「瓜裂清水」を地域の宝と考えていればこそのこと、昭和12年(1937)当時の有志の方々の気持ちが、しっかりと受け継がれている証のように感じられました。

水場にある東屋(あずまや)で瓜裂清水でコーヒーを淹れ、しばらくの間、ゆっくりさせてもらいました。地元の方が話していた通り、口当たりの円やかなコーヒーを味わうことができました。

地域の宝として大切に守られる瓜裂清水
地域の宝として大切に守られる瓜裂清水

綽如上人ゆかりの瑞泉寺と彫刻の町・井波を訪ねる

近くに「瓜裂清水」ゆかりの綽如上人(しゃくにょしょうにん)が開創された「井波別院瑞泉寺(正式名:真宗大谷派井波別院瑞泉寺)」が在るとわかり訪ねてみることに。井波は初めて訪れる町。何の予備知識も持たず町に入り、先ず木彫り工房がずらりと並ぶ表参道(八日町通り)の景観に驚嘆。

彫刻の工房がずらりと並ぶ八日町通りの風景
彫刻の工房がずらりと並ぶ八日町通りの風景

その参道を上り詰めた所に、綽如上人を開祖とする瑞泉寺はあります。江戸末期文化6年(1806)に完成したと伝わる山門をはじめ、本堂、太子堂など、その大きさと荘厳さにさらに驚かされました。拝観する際にいただいた資料によると、瑞泉寺は明徳元年(1390)の建立以来、天正9年(1581)、宝暦12年(1762)、明治12年(1879)と焼失しているそう。そのことが「井波彫刻」発祥の契機となったことも記されていました。

綽如上人を開祖とする瑞泉寺の山門
綽綽如上人を開祖とする瑞泉寺の山門

宝暦12年(1762)の焼失後、瑞泉寺再建のため東本願寺から大工や彫刻師たちが、ここ井波に派遣されました。その彫刻師の一人に、井波の大工たちが弟子入りして、技術を習得し伝承してきたことが今日に繋がっているとのこと。流石に彫刻師の町だけあって、瑞泉寺の伽藍に施されている木彫の数々は、その精密度、迫力いずれにおいても圧巻としか喩えようがございませんでした。

彫刻師の誇りを感じさせる看板
彫刻師の誇りを感じさせる看板

全くの門外漢ながら、他の真宗寺院と伽藍の構えが異なる点が気になり、お寺の方へお尋ねしたところ、次のように丁寧に説明くださいました。

「この地域には、古くから聖徳太子を敬う太子信仰が根付いておりました。宗祖・親鸞聖人も太子を深く尊ぶ人であったので、綽如上人はその太子信仰とともに歩んでいく浄土真宗を開きたいと考え、井波の地を選んだとされています」とのこと。

併せて、戦国時代には一向一揆勢の主要拠点「井波城」であったこともご説明をいただきました。

本堂の襖の間から拝む阿弥陀像
本堂の襖の間から拝む阿弥陀像

その井波城跡の一角に、綽如上人ゆかりの「臼浪水(きゅうろうすい)」という井戸があると教えていただいたので訪れることに。瑞泉寺から歩いて約5分ほどの処、井波城本丸跡に鎮座する井波八幡宮の東側にその井戸はありました。「臼浪水」には、綽如上人がこの地に寺を建立するきっかけとなったエピソードが残っております。

井波城本丸跡に鎮座する井波八幡宮
井波城本丸跡に鎮座する井波八幡宮

それによりますと……
「明徳元年(1390)そのころ杉谷の山里に住んでいた綽如上人が、京都へ向かう途中、乗っていた馬が足で地面をかいたところ、そこから清水が湧きでたそうです。綽如上人は、この不思議な出来事に感激し、この場所にお寺を建てたと言われます。それが後の瑞泉寺だそうです」

「井波」という地名もこの井戸(臼浪水)が発祥とも伝わっております。

綽如上人が瑞泉寺を創建するきっかけとなった臼浪水とその碑
綽如上人が瑞泉寺を創建するきっかけとなった臼浪水とその碑

例年7月下旬には、聖徳太子の生涯を八幅の御絵伝を通して9日間かけて語り伝える太子伝会(たいしでんえ)という仏事が執り行われるそうです。期間中、通常非公開の宝物や山門の楼上も公開されるほか、町をあげての太子伝観光祭も催されますので、機会を作って、彫刻の町と名水散歩を楽しんでみては如何でしょうか?

所在地・アクセス

□瓜裂清水
住 所:〒932-0305 富山県砺波市庄川町金屋
鉄 道:あいの風とやま鉄道 高岡駅から井波経由庄川バスに乗車、西野々バス停で下車、徒歩約5分
自動車:北陸自動車道 砺波ICから約15分

□臼浪水
住 所:〒932-0223 富山県南砺市井波3053
鉄 道:あいの風とやま鉄道 高岡駅からバスで約50分
自動車:北陸自動車道 砺波ICから約15分

取材・動画・撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
ナレーション/小菅きらら
京都メディアライン:https://kyotomedialine.com
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