日本各地には多くの湧水があるが、その中で、何故か名水と呼ばれる水があります。ただ、美味しいというだけではなく、その水が、多くの恵みをもたらし、人々の命に深く関わり、生活を支えてきたからに他ならないからでしょう。それぞれの名水からは、神秘の香りと響きが感じられます。

名水の由来を知ることは、即ち歴史を紐解くことであり、地域の文化を理解することでもあります。名水に触れ、名水を口にすれば、もしかすると、古の人々の想いに辿り着くことができるかもしれません。

歴史ある水を訪ね古都を歩きます。

古くから名勝地として知られる地域には、色々な逸話が伝承されています。そんな逸話には、水に纏わる逸話が多いように感じますが、その理由を考えると、人間が生きていく上で、水が必要不可欠であるが故に、伝承され水神話も多くなるのだと思います。しかしながら、その逸話の多くが実に神秘的で、俄には信じ難いお話が多いのも事実です。

一方で、歴史上実在する人物によって掘られた水が、地域の人々に多くの恵みをもたらし、そうした逸話が語り継がれる名水も数多くあります。そんな名水を求め、日本三景・特別史跡の一つである安芸の宮島を訪ねてみました。

安芸の宮島・対岸からの全景

尊き“徳”によって掘られた名水「誓真釣井」の由緒を辿る

「今日の宮島繁栄の功労者は誰か?」と尋ねられれば、私たち島外の人たちは、おそらく「平清盛」あるいは「毛利元就」などとお答えになることでしょう。

しかし、島民の方々は「誓真大徳・誓真さん」の名をあげるに違いない…と取材を通して感じました。

誓真大徳(せいしんだいとく)は「誓真さん」と慕われ、宮島の恩人とも呼ばれている僧侶。杓子(しゃもじ)を発案し、その製法技術を宮島の島民に教え、現在の宮島細工のもとをつくった人物です。それだけに留まらず、飲み水が不足して困っている島民のために井戸を掘り、道を整え町並みに賑わいをもたらすなど、庶民の生活を豊にした功労者であります。

その誓真さんの足跡とも言える「誓真釣井(せいしんつるい)」を探し訪ねることにしました。

島内に残る「誓真釣井」の一つ

誓真さんが、飲料水の不足に苦しむ島民のために、島内に井戸を掘られたのは天明年間(1781~89)と伝えられています。当初10か所の井戸が掘られたことが伝わっていますが、現在確認できるのは4か所。

中でも宮島桟橋の近くにある「誓真釣井」は、傍に誓真地蔵尊が祀られており、今も誓真大徳が慕われ崇められ、島民の心に息付いていることが伝わってきます。

「誓真釣井」のある港町町内会では、毎月24日を御地蔵様の日と定め清掃が行われているほか、年に一度井戸を掃除し、お祭が行われるそうです。井戸の数メートル先は、海岸であるにもかかわらず、塩気もなく干魃の時でさえこんこんと清水が沸くという井戸。この井戸の水を飲む地元の人に長寿の方が多いことから、誓真釣井の霊水のおかげと信じられているそうです。

これまさに“天下の名水”の証ではないでしょうか?

宮島桟橋の近くにある「誓真釣井」・誓真釣井の霊水

そんな誓真さんの業績をたたえ、その名を後世に伝えたいと島民の手によって建立(昭和12年)された「誓真大徳頌徳碑」があると知り訪ねてみることにしました。その石碑は、誓真さんゆかりの寺である光明院の傍、宮島の町が見渡せる小高い丘公園の中に静かに建っていました。周囲には桜が植えられ、町民たちが憩える場所にもなっています。

厳島神社へ参拝された折には、少しだけ足を延ばしてみることをお勧めします。きっと清々しい気持ちになり、良き思い出になるのではないでしょうか。

宮島の町が見渡せる小高い丘にある「誓真大徳頌徳碑」

世界文化遺産“宮島”は、名水の宝庫でもあることを感じる

宮島といえば、厳島神社(いつくしまじんじゃ)。

平成8年12月に、厳島神社と弥山原始林がユネスコの世界遺産委員会で正式に世界文化遺産として登録されたことで、世界中の観光客が訪れる「世界の名勝地」となりました。

観光客の多くが、満潮時に海上に浮かぶ朱塗りの国宝の回廊、そして大鳥居などフォトジェニックな風景を観ることを楽しみに宮島を訪れていることでしょう。そんな宮島が「名水の宝庫」であることは意外にも知られていないようです。

宮島は、弥山(529m)、駒ヶ林(509m)、島の南西の岩船山(467m)によって形成され、地質は花崗岩の島です。島に降る雨は、山頂から谷を下り幾筋もの川の流れを作っています。

世界遺産に指定された、弥山の原始林から流れ出す水は、飲料水の水質基準値を凌駕するほどの美味しさとか。実際に、弥山原始林の湧き水を仕込み水として使用した“宮島ビール”が発売されていますし、“宮島の水”も販売されております。

弥山原始林の湧き水を仕込み水として使用した“宮島ビール”

宮島の名水と環境が育てた「宮島名産あなごめし」を食す

広島県出身の友人に、宮島へ名水取材に行くことを話したところ「絶対にあなごは食べてこい!」と勧められました。その友人は水産学部出身だけあって、とにかく魚にはやたら詳しく煩い。喋り出したら止まらない…。

彼曰く「世界遺産に指定され、自然保護されている宮島の周辺の海は、原生林から流出した砂地が広がり、流れ込む川の水には豊富な植物プランクトンが含まれているので穴子の餌となる生物が豊かで、奴ら(あなごのこと)にとっては抜群の環境なんだ。だから、美味しいあなごが育つのだ」とのこと。

そして「あなごめしは、どの店でもいいわけじゃないよ!」と、店まで紹介してくれました。

こうなれば行かないわけにはいかない。彼が紹介してくれたお店は、JR山陽本線宮島口駅前にある「あなごめし うえの」という“あなごめし”専門店でした。歴史ありそうな店構えに、少々たじろぎながらお店に入り、おもむろに取材をお願いしますと快く応じていただきました。

あなごめし「うえの」さんの店構え

創業は、明治34(1901)年という、宮島あなごめしの中では老舗中の老舗だとか。店主から、「『うえの』のあなごは、蒸したり、煮たりする調理はせず、ただひたすらにあなごの脂に頼って焼いています。だから、あなご本来が持っている美味しさがぎゅっと濃縮されているのです。ふっくらとしたご飯の上に乗っかる焼きたてのあなごは脂がよくのり、食感もほくほくとしています」とご説明をいただいておりますと…、お勧めいただいた「あなごめし」が出て参りました。

名物「あなごめし」

ご説明いただいた通りの、洗練された上品な旨味が、噛みしめるほど口の中に広がり幸せな気分になりました。余りの美味しさに「あなごめし弁当」も、お土産用にテイクアウト。

お弁当にすると、旨味が染み冷めてさらに美味しいとか。もう一つのあなごめしの美味しさを味わうことができました。本当に、ご馳走さまでした。

所在地・最寄り駅、交通手段

・誓真釣井
住所:〒739-0588 広島県廿日市市宮島町
アクセス:厳島フェリー乗り場から徒歩約3分

・誓真大徳頌徳碑
住所:〒739-0588 広島県廿日市市宮島町401
アクセス:厳島フェリー乗り場から徒歩約10分ほど

・あなごめし うえの
住所:〒739-0411 広島県廿日市市宮島口1-5-11
電話:0829-56-0006
営業時間:9時〜19時(無休。毎週水曜日は18時まで)
http://www.anagomeshi.com/

取材・動画・撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
京都メディアライン:https://kyotomedialine.com
Facebook:https://www.facebook.com/kyotomedialine/

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