文・写真/谷川ひとみ(海外書き人クラブ/ロシア・北コーカサスの歴史を研究中)

リヴィヴ(リヴィウ)はウクライナの西部の中心都市である。リヴィヴの旧市街は世界遺産に登録されており、ウクライナを旅行する際には是非訪れたい街の一つであろう。旧市街自体は小さく、徒歩で十分に見て回れる規模だが、見ごたえは十分だ。

リヴィヴはポーランドやハプスブルグ家の一部だった歴史が長かった。このため、他のウクライナの主要都市とは少し趣向が異なり、どちらかというとチェコのプラハを連想させるような街並みといえよう。この美しい街並みを形成する教会やオペラ劇場などはもちろん魅力的だが、リヴィヴは美味しいコーヒーとチョコレートの町としても有名である。街を歩けば、コーヒーを楽しむおしゃれなカフェが非常に多いことに驚くだろう。カフェをはしごするのも、この町の楽しみ方の一つだ。

旧市街中心地に隣接する丘から眺めたリヴィヴ旧市街中心地の様子。

旧市街を周る際に外観からも目を引くカフェの一つに、美味しいチョコレートとコーヒーを楽しめる、海外展開もしているリヴィヴ発のカフェチェーン「リヴィヴ・ハンドメイド・チョコレート」の本店をあげることができるだろう。

リヴィヴ・ハンドメイド・チョコレート本店。他の店では見られない建物の装飾が楽しく目を引く。

ここは、コーヒーと共に、様々なチョコレートや、チョコレートを使ったパフェなどを楽しむことができる。筆者のお気に入りは、チョコレートドリンクだ。溶けたチョコレートをそのまま飲むことができ、チョコレート好きにはたまらないだろう。持ち帰りできる商品も多いので、お土産にもぴったりである。

チョコレートパフェも甘すぎず美味しい。本店の最上階はガラス張りのテラスのようになっており、日当たりもよくとても居心地がいい。

もちろん、コーヒーにこだわったカフェもたくさんある。たくさんのコーヒー豆から選ぶことができるお店もあれば、古いコーヒー器具が並ぶ見た目も楽しい店など様々だ。筆者が特に気に入ったコーヒーの一つは「夜に飲むのにぴったり」と書いてあったラベンダーフレーバーのミルクコーヒーだった。他にもアルコール入りのコーヒーなどの種類も豊富だった。アルコール入りとは言っても、カフェで提供しているもの。フレーバー程度だろう。と考え気軽に注文したが、思いのほかしっかりとアルコールが効いており、予想外に酔いが回ったことを覚えている。

リヴィヴ旧市街にあるカフェを併設したコーヒー豆店。店員さんもコーヒーに詳しく話を聞くのも楽しい。

この豊かなカフェ文化は、ヨーロッパに初めてコーヒーをもたらしたリヴィヴ出身の商人の歴史の存在が背景にあると言われている。1863年にオスマン帝国軍はハプスブルグ家が支配するオーストリアの都ウィーンを包囲した。いわゆる第二次ウィーン包囲である。この時、ウィーンの町の防衛に一役かったのが、リヴィヴ出身の商人クルチツキーだった。そして、クルチツキーは戦利品として、オスマン帝国軍からコーヒー豆を獲得したという。

その後、クルチツキーはウィーンの街に初めてのコーヒーを出すカフェを開いたと言われる。そして、このクルチツキーの出身地であるリヴィヴの町にもコーヒーは伝わり、リヴィヴの町は地域のコーヒー文化の拠点として発展していったのである。

リヴィヴはウクライナ民族主義が強い町、とよく言われる。そのためか、「リヴィヴの人はロシア語を話したがらない」と考えられがちのようだ。しかし実際は、リヴィヴを含む西ウクライナの一部では、ロシア語があまり喋れない人が多いのだ。実際にリヴィヴの町中を歩いていると、一方はロシア語で、他方はウクライナ語で会話している光景もよく見られる。

筆者は、リヴィヴ滞在中にパン屋を見つけることができず「パン屋はどこにあるのか教えてください」とロシア語で道端の女性に尋ねたことがあった。しかし、女性はロシア語が不得手だったようで、「パン」という単語が通じず困ってしまった。筆者と女性で身振り手振りを交えながらなんとか理解しようと四苦八苦していると、たまたま通りがかったロシア語が分かる地元の男性が助けてくれた。

女性が男性に話しかけると、男性はウクライナ語で女性に何かを伝えた。とたん女性は驚き、次いで笑い出した。「パン」というあまりにもありふれたものについて、必死になってしまったことがおかしかったのだろう。筆者も、つい、一緒になって笑ってしまった。

文・写真/谷川ひとみ(ロシア・北コーカサスの歴史を研究中)大学院博士課程に在学中。研究の傍ら、北コーカサスの紛争や人権問題にも関心を持ち、シリア紛争、ウクライナ・ドンバス戦争なども取材。ライターとしても活動している。海外書き人クラブ会員。(https://www.kaigaikakibito.com/

 

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