文・写真/藤木香(海外書き人クラブ/元カナダ在住、現スコットランド在住ライター)

島国であるイギリスは多種多様な海鳥の生息・繁殖地として知られ、ヨーロッパ全体の約4分の1の海鳥がイギリスに生息すると言われる。そのなかでも離島が多数あるスコットランドは、イギリス全体の約65%、500万匹以上の海鳥の繁殖地となっている。

環境変化に敏感な海鳥は、海洋環境の状態を知る上で重要なベンチマークとして注視されており、近年個体数が減少している海鳥の保護活動において、スコットランドは世界的に重要な地域と認識されている。

スコットランドには500万匹以上の海鳥が生息・繁殖する。

今回ご紹介する自然保護区「Fowlsheugh Nature Reserve」は、スコットランド東海岸最大の海鳥営巣地だ。北海に面し、辺り一帯は30mもの高さの断崖絶壁が続くこの一角は、イギリス最大級の自然保護組織RSPB(Royal Society for the Protection of Birds)によって保護・管理されている。

スコットランド東海岸最大の海鳥営巣地「Fowlsheugh Nature Reserve」

Fowlsheughはバードウォッチャーの間では「海鳥シティ(Seabird city)」と呼ばれるほど、膨大な数の海鳥たちの繁殖地となっている。保護区内へと足を踏み入れると、海沿いフットパス(※)が整備されており、青い北海と断崖絶壁の織りなす、何ともスコットランドらしい風景が広がる。

※「スコットランドの「歩く権利」ゆかりの地のフットパスを歩く」参照:https://serai.jp/tour/1058822

スコットランド東海岸最大の海鳥営巣地「Fowlsheugh Nature Reserve」のフットパス

フットパスを10分も歩くと、鳥の鳴き声が大きくなるとともに、プーンと嫌な匂いが風にのって漂ってくる。グアノと呼ばれる、要は鳥の糞の匂いが、営巣地から漂ってきているのである。この匂い、風がなく、空気が停滞していると特にきついので、苦手な場合はマスク持参がお勧めだ。

最初に見つけたのは、kittiwake(ミツユビカモメ)。崖の面に巣を作り、子育ての真っ最中だ。さすがカモメだけあって、鳴き声は凄まじい。少し遠ざかったあとでも、耳にギャーギャーと反響音が残る。一見街中にいるカモメとよく似ているkittiwakeだが、急速にその個体数を減らしており、イギリス保護規定のレッド(絶滅危惧レベルが高い順にレッド・アンバー・グリーン)に組分けされる、絶滅危惧種だ。

Kittiwake(ミツユビカモメ)の生態、特徴を説明する案内板。
崖の端の巣で子育て中のkittiwake。過去半世紀で世界全体の個体数が約40%減少し、2017年にはIUCN(International Union for Conservation of Nature)レッドリストにも追加されている。

ペンギンのようにも見える白黒の鳥は、実はよく見ると、razorbill(オオハシウミガラス)とguillemot(ウミガラス)の2種類いるようだ。お互い非常に似ているが、クチバシの形でかろうじて識別ができる。クチバシが細くすっきり見えるのがguillemotだ。

Razorbillとguillemotの生態、特徴を説明する案内板。

繁殖時期以外は生涯のほとんどを海上で過ごすrazorbillやguillemotは、漁業網や石油流出など海洋汚染による被害を受けやすく、2種いずれも個体数減少のため、イギリス保護規定のアンバーに組分け、保護されている。

海に突き出た崖の先で日向ぼっこするguillemot

向かいの崖を望遠鏡で見てみると、おびただしい数の海鳥が、絶壁の窪みという窪みを埋め尽くしている。この海鳥たちは、海上や南の国で越冬したのち、毎年春になると繁殖地であるこの地に戻ってくるのだそうだ。その数、なんと約13万匹。あまりの数に、ただただ圧倒されるばかりだ。

絶壁を埋め尽くす海鳥たちの巣。海鳥たちの鳴き声が崖面に反響し、隣の人の声が聞こえないほどだ。
Razorbillとguillemotの巣は入り混じっているとのこと。

ここFowlsheughは、オレンジ色(夏)のクチバシがトレードマークの愛くるしい姿で有名な絶滅危惧種パフィン(イギリス保護規定レッド、IUCNレッドリスト)も、数は少ないが繁殖地として利用している。

バードウォッチャーだけでなく一般の人々の間でも人気が高いパフィンだが、年々生息地が減るなか、近年はシェットランド諸島などの島へ足を伸ばさないとなかなかお目にかかることができなくなりつつある。スコットランド本島、それも住宅地から車で数十分行くだけでパフィンの姿を見ることのできるFowlsheughは、貴重な場所だ。

パフィンの観察スポットを示すサインが、フットパスの脇に建てられていた。

下の写真で、ひっそりと崖の窪みに座る一匹のパフィンがお分かりだろうか。成鳥の体長は30cm前後と事前に調べて想像していたよりも小さめだな、と考えながらも、パフィンの目の前にじっとたたずむkittiwakeに目がいってしまった。これは、パフィンを狙っているのだろうか。

パフィンは可能であれば地面の穴(野ウサギの巣穴など)に巣を作るが、それができない場合は、崖の窪み等を利用するらしい。また、親鳥は雛の羽毛が生え揃うと、雛を置いて飛び立っていくのだそうだ。このパフィンは、羽がまだふわふわとしていて立派な成鳥には見えなかったので、きっと親鳥が去ったあと、巣に残った雛鳥だったのだろう。

崖の窪みに座る雛と思われるパフィンと、その目の前に居座るkittiwake。

実はこの日、バードウォッチング初心者の筆者はなかなかパフィンを見つけることができずにいたのだが、毎年春になるとFowlsheughにパフィン観察に来ているというベテランバードウォッチャーご夫婦に運良く出会い、居場所を教えてもらうことができた。

イギリスではバードウォッチング人気が高く、老若男女に関わらず、普段から気軽に望遠鏡を持ち歩く人が少なくない。RSPBなど環境保護団体が率先して行っている保護指定種の個体数調査なども、一般ボランティアによる日々の目撃報告がデータ収集蓄積の重要なソースとなっている。

岩肌の見える絶壁の中腹にパフィンが座っていた。居場所を教えてくれたベテランバードウォッチャー夫婦の姿が崖上に見える。

バードウォッチングに限らず、スコットランドの海岸沿いフットパスは、概して転落防止などの柵は設けられておらず、あくまで自分の安全は自分で守るスタンスだ。ここFowlsheughも例に漏れず、目もくらむよう断崖絶壁まで足を伸ばせばすぐの所に散策道が整備されているので、高所恐怖症の方には少々厳しい場所かもしれない。

実際、時折だが、崖側に近づきすぎたハイカーが崖から転落したというニュースも見る。とはいえ、常識に基づいて安全に歩いていればまったく問題はなく、小学生低学年くらいの子供達も大人と一緒に散策している。

崖の上に設けられたベンチから、バードウォッチングを楽しむ家族連れ。

Fowlsheughでは海鳥の他にも、運が良ければハイイロアザラシ、イルカ、ミンククジラなどのクジラ類が沖を泳ぐ姿も見られるかもしれない。子育て中の海鳥たちで賑わう情景に出会えるのは5〜8月初め頃までだ。

RSPB Scotland Fowlsheugh: https://www.rspb.org.uk/reserves-and-events/reserves-a-z/fowlsheugh/
RSPB Puffin: https://www.rspb.org.uk/birds-and-wildlife/wildlife-guides/bird-a-z/puffin/nesting-and-breeding-habits/
Majestic Aberdeenshire RSPB Scotland Fowlsheugh: https://www.visitabdn.com/listing/rspb-fowlsheugh
National Trust for Scotland: https://www.nts.org.uk/stories/seabird-conservation

文・写真/藤木香 (元カナダ在住、現スコットランド在住ライター) 米大学院環境学修士号取得後、約5年間のカナダ生活を経て、2019年よりスコットランド在住。海外関連記事執筆や取材コーディネーター等として活動中。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。

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