文・写真/石橋貴子(海外書き人クラブ/スコットランド在住ライター)
食事は、旅行中の何よりの楽しみ。しかも異国の土地で、なんのガイドもなしに、その土地の美味しいものを見つけることは、難しいかもしれない。海外旅行は時間や情報源に限りがある。そんな中、地元の人しか知らないような美味しい食事やお酒に、短時間で、出逢いたい方には、地元の食事情に通じる「フードツアー」をお勧めしたい。
今回ご紹介するのは、スコットランド首都エディンバラで私が参加した「Eat Walk Edinburgh」。約3時間半(*)で、全5箇所を飲んで食べ歩くツアーは、エディンバラの新・旧市街地を練り歩いて行われるため、ちょっとした観光にもなる。さあ、胃袋も、心も200%満たされる旅へ、ご案内しよう。(*ツアー参加人数や進行状況により多少変わる可能性があります。)
1軒目:王道のスコティッシュ・スモーク・サーモン
ツアーの待ち合わせは、エディンバラで最も華やぐ旧市街ロイヤル・マイルにあるホテル Hotel Du Vin & Bistro。アメリカ、ドイツ、メキシコから来た参加者が集まったところで、簡単な自己紹介を行い、ツアー全体の説明を受け、早速フードツアーが始まった。
さあ、期待の1食目。冷製スモークサーモンとオーツケーキのカナッペが、スコットランド製の黒い石製のお皿に乗って供された。
スモークサーモンは、世界的に定評があるスコティッシュサーモンを冷燻(30度以下の低温による燻製)したもの。身は新鮮かつ肉厚、脂は良質、絶妙な冷燻効果で味は濃厚だ。ちなみにオーツケーキはクラッカー的存在で、“ケーキ”と名前につくが、決して甘くはない。オーツ(カラス麦)を原料としており、滋味深く、主役であるサーモンの味わいを引き立てる。
このオーツについて、ガイドのジュリーさんが面白い話をしてくれた。昔、イングランドの有名な辞書で、オーツは「スコットランドでは人が食べ、イングランドでは馬にやるもの」と解説されていたという。これに対し、スコットランド人が絶妙な切り返しをした。「なるほど! だから、イングランドでは名馬が育ち、スコットランドでは優秀な人材が育つのか!」こんなイングランドとスコットランドの関係性をよく表し、皮肉好きな英国人らしい話を聞いた後、エディンバラの風景を眺めながら2軒目へと移動する。
2軒目:ラズベリー・ジン・カクテルと血入りソーセージ
ここ数年、スコットランドでは手作りのクラフト・ジンが大流行している。エディンバラにも、いくつかクラフト・ジン蒸溜所があるが、中でも一番人気のエディンバラ・ジンを使ったカクテルを、人気ダイニングバー Makars Restで味わった。
カクテルは、ラズベリーが香るエディンバラ・ジンを、イタリア発泡酒プロセッコで割ったもの。甘酸っぱく、炭酸は喉に心地よく、口当たりが良いので、あっという間に飲み干してしまう。合わせるおつまみも絶妙。スコットランドのソーセージにマッシュポテトを添えたものと、ブラックプディングだ。ブラックプディングとは、一言で説明するとブラッド(血)ソーセージ。血入りのソーセージは、普通のソーセージに比べるとコクが深いため、最高のおつまみになる。さあ、気分が良くなったところで、3軒目へ移動だ。
3軒目:スコッチ・ウィスキーと名物ハギス
気持ちいい風に吹かれながら歩くこと約10分。エディンバラ旧市街から新市街に移り、訪れたのは、Scotch Malt Whisky Society。いわばウィスキーの会員制倶楽部だ。フードツアー会社のツテということで、一見(いちげん)さんの身分で、いきなり奥深いウィスキーの世界へ踏み込むことができる。これは有り難い。
さあ、お待ちかねのスコッチ・ウィスキーにご対面。頂戴する前に、まずはガイドのジュリーさんからスコッチ・ウィスキーの定義(原料・蒸溜方法・製造地・熟成期間)と地域によって異なる味の個性について拝聴。期待は、さらに高まる。
いよいよ会員制倶楽部オリジナル・ボトルから、ウィスキーがグラスに注がれた。マッカランに代表される名産地スペイサイドのウィスキーは、なんとアルコール度数50.4%(ウィスキーの平均的なアルコール度数は40〜43%)。少し驚きながらも、ジュリーさんのおすすめに従い、まずはストレートで飲んでみた。舌と喉にくるパンチは強いが、クリーミーな甘さの中に、スパイス香と軽いウッディ香、そして爽やかな苦味。味わいはあくまで滑らかだ。そして、水を2滴ほど加えてみる。ウィスキーの香りが開いて、一気に華やかさが増した。ウィスキーは、複雑で面白い。
続いてスコットランド名物料理ハギスの登場だ。ハギスとは羊の内臓をミンチし、オーツ麦・玉ネギ・ハーブ・スパイスで味付けしたものを羊の胃袋に詰めて茹でる郷土料理なのだが、材料の新鮮さや調理方法によって、時に臭みを感じることがある。しかし、会員制倶楽部のハギスは臭みが全く感じられない。もちろんウィスキーとの相性も抜群だ。さすがウィスキーを知る者は、ウィスキーの相棒もよく知っている。
4軒目:クラフト・ビールとスコティッシュ・チーズ
さらに歩いて4軒目。到着したのは、お酒のボトルが店先をお洒落に飾るバー Usquabae。待ち受けていたのは、もう1つの酒天国だった。スコットランドは、クラフト・ジン、スコッチ・ウィスキーだけではなく、世界最高レベルのクラフト・ビールも生産している。
供されたのは、コク深いながらも、喉越しの良いスコットランド産クラフト・ビールと、スコットランド産チーズ3種。実はスコットランドは、チーズも美味しい。そもそも原料となる牛や羊のミルクが美味しいからだろう。ミルク感たっぷりのマイルドな味わいが、クラフト・ビールにぴったり。果物・野菜を煮込んで作ったチャツネ、そしてオーツケーキと一緒に食す。間違いない美味しさだ。
5軒目:スコットランドの大人デザート・クラナカン
最後の目的地であるバー&レストランGhille Dhuに到着。さあ、スコットランド伝統のデザート・クラナカンの登場だ。タイトルに大人デザートと謳ったのは、このデザート、見た目は可愛いのに、ウィスキーが容赦なくたっぷり入っている。蜂蜜入りクリーム、ベリー、ウィスキーが染み込んだオートミールの3層でできている。クリームに蜂蜜が入っているため、少し甘いが、ベリーの甘酸っぱさがあるため、意外とペロッといけてしまう。ふー、最後まで大満足。
【海外フードツアーの見つけ方】
見つけ方は簡単。まずは旅行ウェブサイト(トリップアドバイザー等)から、訪れたい旅行先を選び、ツアーの欄を閲覧すると、口コミ・レーティング(採点)とともに、いくつかのフードツアーを発見できるだろう。口コミにあるコメントや写真を見比べて、訪れる場所や食事内容等、自分の感覚に合うものを見つけよう。またはGoogle等の検索サイトで、food tourと訪れたい旅行先をキーワード入力して、探すのもいい。
なお今回のツアーEat Walk Edinburghの参加費は65ポンド(2018年12月11日時点で約9,280円)。なお説明は英語で行われる。もしかしたら英語力に不安がある方がおられるかもしれないが、壁と感じず、ぜひ参加してほしい。アドバイスとしては、ツアーの最初に参加者同士で自己紹介をするため、出身地や職業、ツアーに参加する理由など自己紹介する内容をあらかじめ想定しておくと、言葉への不安感が薄れて、ツアーをよりスムーズに楽しむことができるだろう。
2019年のゴールデンウィークは10連休になると聞いている。これにより海外旅行が視野に入る確率は高まるだろうし、フードツアーは良い選択肢となるだろう。世界には、まだまだあなたの知らない美味しさが待っているはずだ。
文・写真/石橋貴子(海外書き人クラブ/スコットランド在住ライター)
イギリス連邦国の一部である、スコットランドの最大都市グラスゴー在住。コピーライター・編集者としての25年以上の職歴と、ジャーナリスム専攻ならではの視点を活かし、日々アンテナを張り巡らせて、スコットランドの隠れた魅力をお伝えしている。海外書き人クラブ所属。