日本の伝統芸能というと、能、歌舞伎、狂言など、格式とか由緒とか、家系などがあり、一般の我々にとって未知の領域という感じがいたします。しかしながら、知識がないがゆえに、高尚なものだとか、難解だとか、堅苦しいものとして、近寄りがたいものにして壁を作っているのは私たち一般人のような気もいたします。

実際に、伝統を守られている方たちはどのように考えているのかについて、「大江能楽堂」の能楽師大江信行氏に語っていただきました。お話を聞いてみると、能の世界は開かれたものだとわかります。また、歴史を知れば身近なものに感じてもらえると思います。

これを機会に、日本の伝統芸能・能について関心を持ち、より身近なものとして接する機会にしていただければ幸いです。 

「能」とは、そもそもどのようなものか?

まずは、一体どのようなものが「能」の題材となっているのか、また、「歌舞伎」などの芸能との違いについて教えていただきました。

大江信行氏
お話を伺った大江能楽堂理事長 大江信行氏。

「能」の題材になっているものとは?

「能」の題材とはどのようなものなのでしょうか、大江さんにお話をうかがいしました。

「基本的にはどの時代でも生きている人が感じるであろう、『感情や悩み』という普遍的なものが能の題材になっています。また、『人と神』『自然と人』といったものを表現しているものもあり、それを観た人が自分と照らし合わせて、何か感じるものや感動を得られるようなものが多いですね」

能舞台『百萬』より(撮影/上杉 遥)

「能」と他の芸能との違いとは?

それでは、「能」と他の伝統芸能との違いは何なのでしょうか? こちらについても、お話をうかがっております。

「『歌舞伎』と『能』を例に挙げて、ご説明しましょう。『能』は舞台上で『舞う』といいますが、『歌舞伎』は『踊る』といいます。『能』の起こりは、神社やお寺などで演じられていた民俗芸能。そのような芸能が複合して、平安時代に出来上がったのが『能』です。そこからさらに派生してできたものの中に、『歌舞伎』があります。

江戸時代に入ると『能』は武家社会に取り込まれ、一般の人が目にする機会は減っていきました。武家の嗜みとなった『能』とは対照的に、町衆が楽しんだのが『歌舞伎』です。

能舞台『高砂』より(撮影/上杉 遥)

『能』と『歌舞伎』において決定的に違う点があります。それは、『能』は能面をつけるのに対して、『歌舞伎』は顔に隈取を施すという点です。『能』は基本的に役に扮するときは、衣装と一緒に能面を使います。これが『能』の一番の特徴ではないでしょうか」

「能」以降に生まれた芸能は、「能」の要素が多く含まれているため、似ている点が多いのだそうです。

能の舞台に屋根があるのは、屋外で上演されていた名残りだそう。

「能」が続いてきた理由とは?

「能」が現代まで続いてきた理由についても、おうかがいしました。

「例えば、現代人が「能」を観ても、室町時代や江戸時代を生きる人たちが「能」を観ても、感じることの本質は同じだと思います。時代背景は違いますが、生きていくうえでの悩みや葛藤を持つのは当たり前のこと。『能』は、そういった普遍的なものが題材となっているのです。

能舞台『石橋』より(撮影/上杉 遥)

また、『能』は音楽的要素の強い演劇ですが、特に大切にしているのは言葉です。日本人は言葉を使って遊ぶということが、非常に上手だと思います。ですから、『能』の中で描かれている物語や言葉は、どの時代の人が観てもそれぞれに理解し、感じる部分が多くあるのでしょう。そのようなことから、『能』はなくなることなく続いている、または必要とされていると感じます」と大江さんは言います。

能楽堂を運営する苦労や悩みとは?

大江家が代々受け継いできた「大江能楽堂」は一昨年、「一般財団法人 大江能楽堂」になったそうです。「能楽堂を運営する上での苦労や悩みはあるのでしょうか?」と、ご質問したところ、「このご時世、能楽堂を維持するのは簡単ではない」としたうえで、「しかし苦労という苦労はないと思います」と大江さんは断言。

「この能楽堂に想いをお持ちの方などに支えられ、大切に受け継がれてきた舞台です。頑張っていれば助けてくださる人がいる。苦しみよりも楽しみの方が多いのではないかと思います」と続けます。

大江能楽堂の鏡板は “ここで根をはり、成長し続ける” という意味が込められている。そのため、松の梢や株は描かれていない。

この局面を乗り切れば、新しい世界が見えてくる

「コロナ禍でもありますので、もちろん金銭的な悩みもあります。しかし、これは能楽堂や能楽師に限ったことではありません。世界中がそうだと思います。今、この局面を乗り切ることで、また変わってくる世界もあるでしょう。そのために生きていると考えています。ですので、重ねて“悩みはない”と言いたいですね」と大江さん。力強い言葉が印象的でした。

大江能楽堂は、昔ながらの桟敷席が配されている。曲目ごとにお気に入りの席を見つけるのが通の見方だそう。
御簾席から見た舞台。その昔、御簾席は高貴な人たちの席だった。

老若男女に親しまれる、大江能楽堂

大江能楽堂には、学生の修学旅行からご年配の方まで様々な年代の方が足を運びます。観劇のために足を運ぶ方、日々の癒しや能のお稽古に来る方など、その目的は様々です。

「『大江能楽堂』は、明治からの趣が多く残った建物ですから、年配の方は懐かしさを感じ、若い方は見たことのない景色に驚かれます。“ああ、『大江能楽堂』に来てよかった”と思っていただけたら、うれしいですね」と大江さん。能の世界への扉は、いつでも開かれています。

***

令和3年(2021)、「大江能楽堂」の舞台板は100年ぶりに新しくなりました。これから100年先に向けて想いは継がれていきます。 

大江能楽堂
住所:京都府京都市中京区押小路通柳馬場東入橘町646
TEL:075-231-7620
アクセス:地下鉄東西線「市役所前駅」下車、西へ徒歩約4分/地下鉄烏丸線「烏丸御池」下車、東へ徒歩約5分
URL:https://www.asahi-net.or.jp/~tn4m-ooe/
出演:大江信行・大江泰正
企画/京都メディアライン(HP:https://kyotomedialine.com/ FB
動画撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
動画編集/鹿嶋みのり(京都メディアライン)
文/松田慶子(京都メディアライン)

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