取材・文/沢木文

「女の友情はハムより薄い」などと言われている。恋愛すれば恋人を、結婚すれば夫を、出産すれば我が子を優先し、友人は二の次、三の次になることが多々あるからだろう。それに、結婚、出産、専業主婦、独身、キャリアなど環境によって価値観も変わる。ここでは、感覚がズレているのに、友人関係を維持しようとした人の話を紹介していく。

里子さん(仮名・62歳)は1年前に熟年離婚した。友人・幸江さん(62歳)を頼り、東海地方に移住して1年になる。しかし「友達の近くに住むのは辛い。東京に帰りたい」と後悔している。

【これまでの経緯は前編で】

「離婚したなら、こっちに住んで、ウチの店を手伝ってよ」

1年前に、夫に離婚を切り出され、それに応じた。夫は27年前に不倫関係にあった女性と再会し、その人と再婚するという。

「お金ももらって、マンションも処分した。今思えば、夫があの家に住み続けたのは、不倫相手から電話がかかってくるのを待っていたのかもしれない。家の電話を外そうとした時も、かたくなに拒否をしていたし……。まあそれはいいんですが、家庭内別居とはいえ、それまで夫と暮らしていたのに、突然一人になると、不安でさみしくてしょうがないんですよ。そこで、幸江さんのところに行ったんです」

幸江さんに離婚したことを報告すると、「お疲れ様でした。えらかったね」といたわってくれた。里子さんはその言葉に涙が出てしまう。

「私も気が緩んで、夫がいかにひどかったかを、多少脚色してあることないことしゃべっちゃったんですよね。離婚した後って、ちょっと変なメンタルの状態になっていた。そんな時に、幸江さんから“そんなにさみしいんなら、こっちに住んで、ウチの店を手伝ってよ”と誘われたんです」

かつて里子さん親子が泊まりに行っていた幸江さん夫妻のペンションはコロナを機に廃業した。そして10年ほど前から、幸江さんは娘と“古民家カフェ”のようなものを営んでいた。そこは平日は近所の人々の憩いの場になっており、週末は都市部からくる親子連れなどで賑わっており、人手が足りない。

「また、幸江さんの娘が子だくさんで、4人の孫ちゃんの面倒を見なくてはならない。習い事の送り迎えなどもしており、人手が足りないことがわかったんです」

里子さんも、1人暮らしをして、東京の家賃の高さや人間の希薄さに疲れていた。

「1人暮らしって退屈なんですよ。それまで夫の分の家事もしていたので、1日1回洗濯して、朝晩の食事を作っていましたが、1人だとすることがない。私1人ならトイレも汚れないから掃除は1週間に1回でいい。娘に連絡するとうっとうしがられるし、渡りに船だったんです」

【地元の人が、里子さんの離婚背景などの事情をすべて知っていた……次のページに続きます】

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