文・写真/高櫻沙己子(海外書き人クラブ/フランス在住ライター)

ドラピエのシャンパン(リヨンテイスティングにて)

金色の泡で、パーティーに花を添えてくれるシャンパン。華やかなイメージのシャンパンに、カーボンニュートラル(脱炭素)つまり、二酸化炭素を発生させずに作られたものがあることをご存知だろうか?  シャンパンとはフランス、シャンパーニュ地方において、シャンパーニュAOC基準に基づいて生産されたスパークリングワインのことだ。

2021年のシャンパンの総売り上げは前年比32%増、世界で約3億2200万ボトルが販売され、フランス国内需要も25%増とロックダウンによるウチ飲み需要が拡大した。

フランスでは、クリスマスや大晦日のカウントダウンに、シャンパンはつきもので、毎年12月に入るとシャンパン特集号が組まれ、プロモーションが始まる。

大事なクリスマスディナーにどのシャンパンを選ぶか? これはフランス人が抱える年末の悩みのひとつである。

筆者も今までは、その時の気分でクリスマスのシャンパンを選んでいたが、去年はなんと環境問題への取り組みという視点から、カーボンニュートラル(脱炭素)なシャンパンを選んだのである。

事の発端は偶然で、リヨンの町を歩いていると10月にワインサロン「リヨンテイスティング」開催のポスターが目に留まった。

ワインサロン、リヨンテイスティング会場

早速、主催者の仏ワイン雑誌「テール・ドゥ・ヴァン」にインタビューの申し込みをすると、なんと編集長のトネール氏が受けてくれると言う。

筆者の最近の興味の一つに「ワイン業界の環境問題への取り組み」がある。

フランスでは、オーガニックやHVE(環境価値重視認証)ラベルのワインが年々多くなり、ナチュラルワイン専門店も見かけるようになった。つまり環境認証を受けるワインの作り手の数が増加している。

2年前にボルドーのソーテルヌの小さなシャトーを訪れた。環境認証を持つシャトーで、殺虫剤の代わりに使う、害虫である雄蛾を攪乱させるための、雌蛾のフェロモンを浸み込ませたリボンを見せてもらった。1本1本手作業で害虫駆除するという。

「手作業は大変だと思いますが、農薬をやめようと思った理由は何ですか?」と質問すると、環境負荷が大きくなり、気温上昇などの環境変化が進むと、望み通りのブドウができなくなるからとのことだった。

雌蛾のフェロモンを浸みこませた赤いリボン

「ソーテルヌワインに必要な貴腐葡萄の発生には、朝霧が不可欠ですが、気温が上がり、朝霧が発生しないと貴腐葡萄ができなくなり、ソーテルヌワインを作れなくなるかもしれません。死活問題なんですよ」と話してくれた。

テール・ドゥ・ヴァン誌トネール編集長の言葉を借りれば、

「もはや環境問題への取り組みなしでワイン業界は語れません。」というのが、現状を表している。傑出した例としてシャンパンメーカーの「ドラピエ」を挙げてくれた。カーボンニュートラルを実現しているのは、このドラピエである。

自社社屋の太陽光パネル
馬を使った農耕
ドラピエ家の人々
EV作業車
EV車充電ステーション

1808年に創業、現在オーガニックブドウ栽培を実践、馬を耕地で使用する傍ら、2016年に脱炭素化を達成している。2000平方メートルの太陽光発電パネルを所有し、自社電力消費量の 75%を自家発電し、トラクター、作業車には EV 車を導入。EV車のビジターは、太陽光パネルから充電もできるそうだ。

ワインボトルも軽量化が図られ、従来のボトルに比べ15%軽量化可能なデザインへ変更している。また、旧樽やパレットなどの廃材はリサイクルされている。

もう一つの例としてボルドー、サンテミリオンの4つのAOCを統括する、サンテミリオン・ワイン組合(Le Conseil des vins de Saint Emilion )は2023年までに組合員(970人)にHVE認定2の取得を義務化し、組合全体で取り組んでいる。

ボルドーでは、このように環境保護に取り組む一方、環境変化に適応した新ブドウ品種の開発も進み、すでに一定量を実験的にAOCワインに使うことができるという。

「環境変化に従って、ワインのスタイルは変わっていくのでしょうか?」と聞いてみた。

「スタイルはいつの世も変わるものなのです。素晴らしい定番がある一方で、新しいワインを作ろうという試みはいつも行われています。ワイン業界はダイナミックなのです。変化に対応する手立てを打っていますから」とトネール氏の言葉は力強い。

テール・ドゥ・ヴァン誌トネール編集長(左)

インタビュー後、シャンパンメーカーのドラピエのスタンドで試飲を楽しんだ。

テロワールと呼ばれる土地の持つ気候や土壌の性質を活かしたブドウ作りと、そのブドウを使ったワイン作りがなされたシャンパンは、エレガントでピュアな味わいだった。

カーボン・ニュートラルを可能にする再生可能エネルギー設備と、馬を使った農耕、熟練職人の醸造技術、そして確固とした企業理念のもとにこのシャンパンがあると、金色の泡を見ながら思った。

消費者のひとりとして、環境への取り組みをしているメーカーを選ぶことで、その後押しをする。これも持続可能な未来の実現への関わり方になるのではないだろうか。

テール・ドゥ・ヴァン誌Terre de Vins : https://www.terredevins.com
シャンパーニュドラピエChampagne Drappier : https://www.champagne-drappier.com/fr
リヨンテイスティングLyon Tasting You tube : https://youtu.be/35Ku3wKIM-k
ドラピエの写真(タイトル下以外) : Champagne Drappier 

文・写真/高櫻沙己子(フランス在住ライター) 日仏ビジネス通訳。1998年からフランス・リヨンに在住。子育て後、専業主婦からビジネス通訳に転向。ワイナリー訪問が趣味。「海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)」

 

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