文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)

タニャラック・テチャスリスティさんの『ある編集者の告白』

世界を席捲する日本の漫画。ここタイでも漫画市場の90%以上をメイドインジャパンが占めている。そんな中、自分たちならではのオリジナル性を出した漫画を発表している若者たちが続々と現れている。

実際、日本の外務省が行っている国際漫画賞で、タイは常連の受賞国の1つになっている。

恋人同士揃って国際漫画賞を受賞した コーシンさんとピトシニーさん。

例えば、コーシン・チーンシーコンさんとピトシニー・タンキッティヌーンさん。仲の良い恋人たちだが、実は、2人共に同賞を受賞している。

『ガンサダーンの音が聞こえる』は現在まで5巻に加えて外伝1巻も出ている人気シリーズだ。

コーシンさんは国立シーナカリンウィロート大学で美術を学んだ後、漫画家デビュー。『ガンサダーンの音が聞こえる (Listening to the Bell)』で第6回国際漫画賞の最優秀賞を獲得をした。ロックドラマーの青年が父の後を継いでタイ楽器の道を進むヒューマン・ドラマだ。

『マイ・リトル・キッチン』は4巻で完結した。

一方、ピトシニーさんは北部チェンライから漫画家を目指して上京。画力を買われ最初は原作付きのアクション物を描いていたが、その後、エッセイ・コミックへとスタイル変更。タイ各地の食を紹介した『マイ・リトル・キッチン(My Little Litchen)』という作品で第13回の優秀賞に選ばれている。

今のタイの漫画界は、日本の昭和の漫画界を私に思い起こさせる。国自体が食べることに重きを置いていた時代から、芸術文化に目を向ける余裕が出てきた時代になったことで、バイタリティ溢れるいろんな“原石”が出てきているという点で。

昭和の時代、“原石”の発掘に力を注ぐ『ガロ』を出していた青林堂を思わせるインディーズ漫画出版社もある。レッツ・コミック社(Let’s Comic)だ。美術大学の生徒だったタニャラック・テチャスリスティさんが、タイでも当時流行していた同人誌からスタート。実家がポスターなどを手掛ける印刷会社だった事から、工場の二階に小さなオフィスを作り、漫画出版事業を2007年から本格的に始めた。やはり、『ガロ』のように読者層は大学生やメディアや広告などの業界で働く人々が主になっている。

新人漫画家たちを積極的に紹介しているレッツ・コミック社。

これまで200冊近い漫画を出版。その中には第五回国際漫画賞の優秀賞を取った『自分の声にしたがって旅に出る男(タニス・ウエラサックウオンさん著)』もある。故永島慎二さんのペーソス溢れる作品を想起させる佳作だ。同社のフェイスブックページにはタニャラックさんの漫画に対する慧眼を信じ、毎週多くの新人の作品が送られてくるという。

一方で、タニャラックさんは自身も漫画を執筆。『ある編集者の告白(The Confession of An Editor)』は漫画界を含むタイの社会を風刺したSF仕立ての物語になっている。

『ある編集者の告白』は近未来のバンコクを舞台にしている。

このように才能溢れる漫画家たちがたくさんいるタイだが、彼らの経済的状況は決して良いとはいえない。1ページの原稿料は出版社によって違うが300~500バーツ(約1000~1700円)ぐらいで、しかもコミックス出版に漕ぎつけ印税を得られるのは稀……。

しかし、明るい側面もある。フェイスブックなどソーシャルメディアの広がりで、漫画家たちが独自で作品を販売するなどオプションが生まれていること、ネット広告やゲームなど新しいメディアに作品が起用されたりする機会が増えたことなどだ。

タイの漫画界の「明日はどっちだ?」。

文・写真/梅本昌男(タイ・バンコク在住ライター)
タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、エンタテインメントまで幅広く網羅する。海外書き人クラブ会員https://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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