文・写真/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
皆さんご存知のようにタイは仏教国で、国民の9割以上が敬虔な仏教徒。そんなタイならではのお守りが「プラクルアン」と呼ばれる仏陀や高僧を象ったお守りだ。
「プラクルアン収集家はタイ全土で約1000万(*)と推定されています。タイだけでなく、近隣のマレーシアやシンガポールなど東南アジアの国、香港や台湾にもコレクターがいます」
*タイの人口は6,659万人(2020年タイ内務省調べ)。
そう言うのはパシット・シリワッタナコーンさん。父親が創業したプラクルアンを扱う専門店の『シリストア』を継いでいる二代目だ。1000万とは人口から考えると、かなり大きな割合だ。しかし、タイの名物である市場には大抵プラクルアンの屋台が出ていたり、専門店や屋台が並ぶ通りがあったり、専門雑誌が出版されていたりする状況から、それもあり得るのかと思う。実際、プラクルアンを首から下げている人もよく見かける。中には5~6個も一度に下げているツワモノもいる。
シリワッタナコーンさんによれと、プラクルアンは大きく2つのカテゴリーに分かれるそうだ。1つは数十年から数百年前に造られたオールド・プラクルアン(プラカオ)、アンティックのような位置付けだろうか。そして、新しく作られたニュー・プラクルアン(プラマイ)。こちらは傾向として、よりデザイン性が高くアート作品とも見なされる物や純金や銀を使った貴金属的な品も多く造られているという。
オールド・プラクルアンの中で最も高額な物の一つが、1860年代後半に造られたラカン寺院のプラソムデット。8000万バーツ(約2億7千万円)で取り引きされた記録がある。
先述したような専門店や屋台には、ルーペを持って、その真偽を熱心に見極めようする収集家たちがいつも群がっている。陶器や掛け軸に熱中する骨董品マニアのような感じだ。
なぜプラクルアンはこれほどまでに人気なのか? それは希少性や造形美だけではない、特殊な力をこのお守りが備えているからなのだ。家内安全や商売繁盛、学業祈願などが叶うとされ、「プラクルアンを身に着けていたから自動車事故で命を助かった!」という奇跡を報じるニュースもよく目にする。
最近、このプラクルアンが話題のNFT=非代替性トークン(*)となって登場した。
*NFTは素材を代替不可能なデジタル資産へ変換し、その所有に関する証明書を記録する事で固有の価値を持たせるデジタルトークンのこと。先日、ツイッター創業者の初のツイートをNFT化した物が約291万ドル(約3億3千万円)で落札されニュースになった。
クリプト・アミュレット社が発行したこのNFT、高僧LPヘンさんをモチーフにしている。現在95歳のヘンさんは、いろいろな奇跡を起こしたという逸話が残っている伝説の僧。プラクルアンの中でも彼の物は高い人気があり、販売されると即座に売り切れになる。
このNFTプラクルアン、通常のプラクルアンと同じように、ヘンさんの念を込める儀式もちゃんと行われた。
同社の創設者であるエカポン・ケムトーンさんはNFTクリエイターでもあり、実物のプラクルアンに負けない魅力を備えた作品にする事が大変に難しかったと語っている。その努力の甲斐あって、NFTプラクルアンの評判は上々。すでに他の高僧による新作も手掛けているそうだ。
JETRO(タイ概況・基本・統計):https://www.jetro.go.jp/world/asia/th/basic_01.html
シリストア:https://www.siristore.com/
NFT(非代替性トークン)を活用したデジタル世界の未来:https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights/blockchain-featured1.html
クリプト・アミュレット:https://cryptoamulets.io/
文・写真/梅本昌男(タイ・バンコク在住ライター)
タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、エンタテインメントまで幅広く網羅する。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。