取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
ダイエットのためには食生活や運動量、休息の見直しが必要ですが、太りにくい「やせ体質」になると効果を上げやすくなります。パーソナルトレーナーの奥谷喜之さん(以下、奥谷)は、「やせ体質」になる方法の一つとして、「こまめに水分を摂取すること」を勧めています。なぜ水分を摂取するとダイエットに効くのか話を聞きました。
新陳代謝を高める
――なぜこまめに水分を摂取すると「やせ体質」になれるのでしょうか。
奥谷 「水分を摂取すると新陳代謝が活発になります。成人の場合、体の約55〜60%が血液を含む水分なのですが、水分によって人間は体温を36.5度くらいに保ちます。低体温になると血液が熱を体の隅々まで運んで体を温め、高体温になると細胞から熱を運び去り、皮膚から放熱させるのです。これは細胞にとって最も快適で、機能を最大限に発揮しやすい体温なのですが、新陳代謝も活発に行われます。また、食事の消化吸収、排泄にも代謝が深く関わっています。例えば脂肪を分解するホルモンは血流に乗って脂肪細胞に運ばれますが、血液のめぐりが悪いと代謝が滞ってしまいます。日頃から水分を適量摂取することで新陳代謝を活発にし、体の変化を促しましょう」
基礎代謝の向上
――基礎代謝にも影響するのでしょうか。
奥谷 「私たちは、何もせずにじっとしている時でも生命を維持するためにエネルギー消費しますが、これを基礎代謝といいます。1日24時間で消費するエネルギーのうち、約60%が基礎代謝によるものなので、エネルギー消費量を上げる場合は、いかに基礎代謝を向上させるかが重要です。水を飲むと体内が冷やされ、冷えた体温を元に戻すために血行が良くなります。血行が良くなると代謝が高まり、エネルギーを消費しやすい状態になります」
老廃物の排出を促す
――水分を摂り過ぎるとむくむように思うのですが。
奥谷 「『水太り』という言葉から、水を飲むと太ってしまうのではないかと思われるかもしれません。しかし、水太りとは、慢性的なむくみが続く状態のことを言います。逆に、むくみは水分不足が原因のことが多いのです。
――なぜ水分不足だとむくみやすくなるのでしょうか。
奥谷 「水分が不足すると体に溜まった老廃物を体外にうまく排出できなくなるからです。体内の水分、すなわち血液やリンパ液は体内を循環し、老廃物を汗や尿として体外に排出します。しかし、水分が不足するとその働きが滞り、細胞の間に水分が残るのでむくみやすくなるのです」
――排便も代謝のひとつ、便秘も予防したいですね。
奥谷 「消化吸収後の食物残債は便として体外に排出されますが、古くなった腸の粘膜の上皮や大腸菌など大量の腸内細菌の死骸も便を形作っています。これらをまとめるために水分が必要ですし、体外に排出するためにも水分が必要です。便秘になると栄養の吸収や代謝の妨げにもなるので、適量の水分摂取をすることで便秘を予防しましょう」
トレーニングの効果も上げられる
――トレーニングにも水分は影響しますか。
奥谷 「筋肉にもたくさんの水分が含まれています。また、筋肉に栄養を運んだり、老廃物を運んだりする血液も90%が水分で、筋肉と水分は密接な関係があります。また、水分不足のままトレーニングを行うと、筋肉増強の効果が小さくなることも分かっています。トレーニング後に分泌される乳酸の排出にも水分が必要で、体に十分な水分があれば、血液が乳酸を効率よく運ぶため、疲労回復や筋肉痛の緩和を促せます」
水の摂取の仕方
――1日にどれくらいの水をどう摂取するのが望ましいのでしょうか。
奥谷 「1日に2リットルは摂取しましょう。コップ1杯(約200ml)の水を10回くらいに分けて飲むことをお勧めします。朝起きた時、食事の時、10時、15時、運動する前と後など、飲むタイミングを決めておくといいでしょう。水にもいろいろありますが、日本人の場合、軟水だと効率よく吸収されます。温度は常温でも構いません。運動時は冷えた水を飲むと体にこもった熱を下げられるので、冷たいものがいいでしょう。水のままだと飲みにくいという人は、お茶や食事の時に味噌汁を飲むのもおすすめです」
奥谷喜之 フリーランスパーソナルトレーナー。大手スポーツクラブやパーソナルトレーニングジムにて活躍。姿勢の改善とダイエットのためのトレーニング、膝や腰の痛みの緩和とトレーニングなど、それぞれの悩みに寄り添うトレーニングが好評。6年間、福祉施設で高齢者のリハビリトレーニングや介護予防運動の指導、地域住民の運動指導も行った。2018 BEST BODY JAPAN大阪決勝進出。資格:NSCA CSCS(ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、介護予防指導士。LESMILES(BODYCOMBAT、BODY PUMP)インストラクター
取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。小学館サライ.jp、文春オンライン、朝日新聞社telling、Sippo、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。