文・写真/倉田直子(海外書き人クラブ/オランダ在住ライター)

アムステルダムの運河にかかった3Dプリンターの橋

オランダのアムステルダムは不思議な街だ。中世の面影を色濃く残す街並みの中に、新しいものを取り入れ融合させていく。今回は、そんなアムステルダムの歓楽街に出現した、世界初の構造物を紹介したいと思う。

橋はアムステルダムに欠かせない存在

運河が多いため橋は生活に欠かせない

アムステルダムは運河が張りめぐらされた街なので、橋は人々の暮らしに欠かせない存在。もし橋がなければ、住人は日常的に遠回りを余儀なくされてしまう。市内には合計1200以上の橋があり、パリよりも多くの橋があるといわれている。数世紀にわたって利用されている橋もあり、最も古い橋は1648年製造なのだという。

そのため橋にも定期的に改修の手が入るが、そのうちのひとつが話題を呼んだ。臨時でかけられた橋が、「世界初」の機能を持っているのだ。

世界初!3Dプリンターで作られた金属製の橋

3Dプリンターで作られた金属製の橋

それはなんと、3Dプリンターで出力された橋。2021年7月中旬にアムステルダムの飾り窓地区(歓楽エリア)にある運河に設置され、オランダ国内のみならず世界からも注目された。その理由は、素材が金属(ステンレス鋼)であるということにある。3Dプリンター市場は急成長を遂げていて、2025年度の世界の金属3Dプリンター市場は2,500億円になるという予測もある。けれど3Dプリンターで出力された金属製の橋は前例がなく、オランダのMX3D(https://mx3d.com/)という企業が様々な研究機関の協力を得て手掛けたこの橋が世界初の実用例になるのだという。

「DUS architects」製の「3D Printed Urban Cabin」
「3D Printed Urban Cabin」の原材料

筆者はかつて、オランダの別の企業が手掛けた3Dプリンター製のキャビンを見学したことがある。けれどその素材は「the bio print material」という樹脂のような素材で、金属製ではなかった。

橋のように人々が直接体重をかけ、さらに安全性が重要になる構造物には、確かに金属製のほうが向いているだろう。

金属の層を重ねた流線型デザイン

3Dプリンターの橋の手すり部分

この橋は前述のように3Dプリンター(ロボットアーム)で出力しているため、ミルフィーユのように無数の層を重ねて作られている。このプロジェクト自体は4年ほど前に発足しているが、実際の出力には半年ほど要したという。筆者はこの橋の実物に触れてみたが、手触りはまさに金属。橋としても利用に全く不安を感じさせない強度だった。

美しい曲線で構成された橋

3Dプリンターで作る橋の利点は、流線形デザインも可能なところだ。全長12.2m、幅6.3m、総重量6トンという大型の構造物であるが、全て曲線で構成されているので威圧感はまったくない。アムステルダムの街並みにも不思議とフィットしている。

この橋のデザインは、2018年10月に開催された「ダッチ・デザインウィーク・アイントホーフェン」というデザインイベントで最初に展示された。その際、そのデザイン性が高く評価され、ダッチデザイン賞のみならず、観客賞も受賞したという。このことからも、一般人の感性にもうったえかけるデザインなのだということが見て取れる。

データ分析に活用される「スマートブリッジ」

橋には歩行者の行動を測定できるセンサーが設置されている

この橋が革新的なのは、3Dプリンター製であるということばかりではない。

この橋は、歩行者の行動を測定できるセンサーが随所に組み込まれている「スマートブリッジ」でもあるのだ。この橋の利用者数や摩耗状態といった情報が製造者のMX3Dに転送されるのだという。そしてそのデータは、今後、より大規模な3Dプリンター建造物を設計するときの参考にされる予定だ。

橋を利用するアムステルダムの人々

この橋を利用することが3Dプリンター業界の発展につながると思うと、なんとも不思議な気分だ。

使用予定は2年間

人々を迎え入れるようなデザイン

こうして世界中から注目されているアムステルダムのステンレス製3Dプリンターの橋。今後の3Dプリンター製品の発展を語る際に、欠かせない存在になることは間違いない。ただし、この橋はあくまでも本来の橋が修復作業中の代替品であり、この場に架けられるのは2年のみを予定しているという。臨機応変なオランダのことなので変更もあるかもしれないが、コロナ禍で観光客が少ない時期のデビューになってしまったのはなんとも残念だ。ぜひ長くこの場所にとどまって欲しいと願っている。

文・写真/倉田直子(海外書き人クラブ/オランダ在住ライター)
北アフリカのリビア、イギリスのスコットランドでの生活を経て、2015年よりオランダ在住。主にオランダの文化・教育・子育て事情、タイニーハウスを中心とした建築関係について執筆している。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。

 

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