昭和の時代が終わってから、早いもので30年以上が経過してしまいました。

過ぎ去りし日と共に、昔の記憶を呼び起こしてくれるモノも、少しずつ身の回りから姿を消しています。たとえば、見慣れた近所にあった古い建物が、突然に取り壊されたりすると、まるで大切な記憶の一部が、誰かに剥ぎ取られたかのように寂しい気持ちになったりもいたします。これも時代の流れかと、諦めなくてはなりませんが、どこか寂しさを感じざるをえません。

そんな時、遠い記憶の中にある風景を探しに、知らない町や村を彷徨したくなります。あなたの記憶の中にある“懐かしい風景”と重ね合わせ、ひと時のノスタルジーに浸っていただけたら幸いです。

岩崎弥太郎の銅山経営、そしてベンガラによって繁栄した「赤い町並み」

今回の「懐かしき風景」は、岡山県西部の山間部、標高500m吉備高原にある成羽町吹屋の町並みを紹介いたします。ここ成羽町吹屋地区は、室町時代の頃から銅が産出していたことが古い文献に記されています。そうしたことから、戦国時代にあっては「石見銀山」がそうであったように、尼子と毛利両氏による領有権争いが繰り広げられたようです。江戸期に入ると幕府領に。歴史的には銅山としての歴史が古く、天和年間1681年の頃、住友・泉屋によって西日本一の銅山となった時期もありました。

また、明治期に入ると岩崎弥太郎(三菱)が銅山経営に乗り出し、明治末期から大正にかけて生産量の最盛期を迎え日本三大銅山の一つに数えられるまでになったのです。

その銅の生産が、副産物である「ベンガラ」製造に結びつき吹屋にいっそうの富をもたらすことになります。

ベンガラの主成分は酸化第二鉄、吹屋の銅山で産出される硫化鉄鉱を原料として生まれた銅の副産物。このベンガラは、実に偶然の発見だったそうです。今も伝わる逸話によれば…「火鉢の中の焼石を庭先に捨てたところ、降っていた雨に濡れて水が赤くなった」。これにヒントを得て、鉱石を焼いて水洗いすれば赤い色素が得られることを偶然に知ったといいます。

そして吹屋を治めていた時の代官・早川八郎左衛門正紀がベンガラの商品価値を見抜き、吹屋で独占的に製造することを奨励したとのことです。

「ベンガラ」は、インドのベンガル地方から輸入されていたことから「ベンガラ」と呼ばれるようになったとか。この赤色顔料は、絵の具、染織、陶磁器、漆器など幅広い用途に使われました。特に、優れた防錆・防腐効果があることから、建築や船底塗料等々に欠かせなかったようです。

吹屋で製造されるベンガラは品質に優れ「赤の中の赤」と珍重され、日本全国はもとより海外にまで広まったといいます。化学顔料が主流になるまでは「備中吹屋のベンガラ」が市場を独占していたそうです。

当時、ベンガラ製造で財を築いた長者屋敷が、今も通りに立ち並び独特の雰囲気を醸し出しています。一瞬、荷を積んだ牛馬がひっきりなしに往来していた、江戸時代後期から昭和の中頃の時代へタイムスリップしたかのような感覚に陥りました。

鈍いジャパンレッドに包まれたこの町は、平成27年に文化庁が創設した「日本遺産」に認定され、今や時代劇やサスペンスドラマなどのロケ地になっております。有名なところでは、松竹映画 横溝正史『八つ墓村』、最近では新選組副長・土方歳三の生涯を描いた『燃えよ剣』など、数多くの映画の撮影場所となりました。

是非一度、当地を訪れタイムスリップの感覚に浸ってみては如何でしょうか。

記者のお薦め宿泊施設や食べ物

◯お勧めの宿泊施設:和味の宿 ラ・フォーレ吹屋

吹屋の町並みまで徒歩3分の場所に位置する宿。懐かしき風景の中でのんびりと時間を過ごすことができます。交通の便があまり良くない吹屋ですが、宿に頼めばJR「備中高梁駅」から無料送迎をしてくれるので、車がなくても町を訪れることができます。

公式ホームページはこちら(http://laforet-fukiya.com/restaurant/index.html

◯地酒 純米吟醸 備中松山城

現存する日本一高い山城をPRするため地元の酒造会社(芳烈酒造株式会社)が造った辛口のお酒。酒名の「備中松山城」は、岡山県高梁(たかはし)市にある山城(やまじろ)からとったもの。近世の山城としては、唯一天守などが残っています。

標高480mの臥牛山(がぎゅうざん)は4つの峰からなり、そのうちの小松山に本丸、二の丸、三の丸が階段状に配され、ほかに大松山、天神の丸、前山にも遺構があります。城跡は国の史跡に指定され、現存する天守、二重櫓(にじゅうやぐら)、土塀の一部が国の重要文化財に。日本城郭協会選定による「日本100名城」の一つです。

アクセス情報

所在地: 岡山県高梁市成羽町吹屋
鉄 道: JR伯備線「備中高梁駅」より車で40分、または吹屋行きバス乗車55分、終点下車
自動車: 岡山自動車道賀陽IC 50分

取材・動画・撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)
ナレーション/敬太郎
京都メディアライン:https://kyotomedialine.com
Facebook:https://www.facebook.com/kyotomedialine/

 

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