文・写真/東リカ(海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター)
「世界最大の巨大生物」と聞いて、思い浮かべるのは何だろうか?
それはきっと、迂闊に人が近寄れない深海やジャングル内に潜んでいるのでは、と考えるかもしれない。しかし正解は、筆者が暮らすここオレゴン州ブルーマウンテンズの森に生息する「ヒューマンガス・ファンガス(The Humongous Fungus)」。日本語で言うなら「巨大菌類」である。
ブルーマウンテンズは、オレゴン州北東部に位置する山脈。その麓に広がる6,880平方キロメートル(170万エーカー)の「マルール国有林(Malheur National Forest)」は、最高峰のストロベリーマウンテンを中心に高地砂漠の草原や松、モミなどの茂る針葉樹林など複数の植生から成るエリアだ。森林内には、国道が南北、東西それぞれ走っており、キャンプ場やハイキングトレイルも散在する。
その国有林の針葉樹林が多い地域に巨大菌類が見つかった。
世界最大の巨大菌類は、「オニナラタケ(Armillaria ostoyae)」。マルール国有林北部には、5つの大きなオニナラタケのジェネット(同一の遺伝子を共有する単位)が見つかっており、その1つが調査の結果、世界最大の生物だと判明したのである。
その大きさは、一番小さいジェネットでも0.2平方キロメートル(50エーカー)、真ん中のもので1.95平方キロメートル。世界最大の巨大菌類は、なんと3.8km以上に渡って発生し、9.65平方キロメートル(2,385エーカー)を占めるという。 関西国際空港の敷地面積が約10.58平方キロメートルだというから、その大部分が覆われてしまうサイズである。
また、推定重量は、7,567トンから35,000トン。広がるスピードから推定する年齢は1900才から8650才だとか。
しかし、巨大菌類の大部分を占める網のような繊維状の根は、地下や木の内部に隠れていて、通常この地域を歩いてもその存在に気づかないだろう。ただ、秋の最初の雨が降った頃にだけ、オニナラタケ菌の入り込んだ木の根元や倒木からキノコが姿を現す。
このオニナラタケを含むナラタケ類(Armillaria)は、こちらでは若いキノコのかさが蜂蜜色をしていることから「ハニーマッシュルーム」と呼ばれ、ソテーなどにして食用されている。日本でも北海道や、東北地方地域を中心に、味も歯ごたえもよいと広く親しまれているようだ。
それなら、この国有林付近の人たちは、たくさんおいしいキノコが食べられると喜んでいると思うかもしれない。しかし、実際は逆に、木の根っこから感染して木を枯らしてしまう「樹木病原菌」のため、ナラタケ類は厄介者扱いをされているという。巨大なオニナラタケは、私たちにとっての脅威だろうか。
しかしそれも自然現象の1つ。私たちが生まれる遥か前から何千年もの時を生きてきた巨大菌類を邪魔者扱いするだけでなく、共生の道を探るべきかもしれない。
マルール国有林(Malheur National Forest) https://www.fs.usda.gov/malheur
文・写真/東リカ (海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター) 米国オレゴン州ポートランド在住。2014年12月に家族でブラジル・サンパウロから移住。現在はフリーランスとして、日本のメディアへの執筆やマーケティングリサーチを行なっている。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。