文・写真/角谷剛(米国在住ライター / 海外書き人クラブ )
メジャーリーグに限らず、米国にあるどこの野球場に行っても、7回表が終了するとスタンドの観客が一斉に立ち上がり、腕や足を伸ばしてリフレッシュする光景を見ることができる。その際にきまって合唱される有名な『私を野球に連れてって』の歌詞には実は”baseball” (野球)という単語はない。代わりに使われているのが、”the old ball game”(古いボールゲーム)という言葉だ。多くの米国人にとって野球とは単なるスポーツではなく、歴史に彩られたクラシックな文化なのである。
人口約2000人の「野球の町」クーパーズタウン
そうした野球の歴史を伝える建造物や博物館は全米中に多数あるが、そのなかでももっとも高名なものは、ニューヨーク州クーパーズタウンにある米国野球殿堂博物館だろう。毎年選ばれる「野球殿堂入り」選手の表彰式がここで行われ、館内には表彰者たちのギャラリーの他に、野球というスポーツの発展に寄与したとされる元選手や関係者たちの記念品が数多く展示されている。その中には野茂英雄やイチローなど、日本人選手や日本野球に関係したものも含まれている。
その知名度のわりには、この博物館を訪れる観光客は実はそれほど多くはない。入館に予約は不要であるし、筆者が訪れたときには他に日本人は1人も見なかった。それは、クーパーズタウンのお世辞にもアクセスが良いとは言えない立地条件のせいだと思われる。
クーパーズタウンはニューヨーク州の中央部に位置し、中心地マンハッタンから北へ向かって車で3時間以上はかかる。公共交通機関はないに等しく、現実的にはレンタカーを借りて自分で運転する以外に、観光客がこの地を訪れる方法はない。大げさに言えば陸の孤島のような交通不便な土地である。
そんなクーパーズタウンに野球博物館が建てられたのは、この地が米国での野球発祥地、あるいは聖地だと考えられているからである。南北戦争時の北軍将軍アブナー・ダブルデイが1839年にこの地で野球を「発明」したと言われている。
この野球誕生にまつわる伝説の信憑性には異説があるが、「創始者」の名を冠した野球場「ダブルデイ・フィールド」が博物館に隣接し、2008年までは野球殿堂入りを果たした往年の名選手たちが毎年エキジビジョン・ゲームを行っていた。現在は主にアマチュア野球に使用されている現役の野球場である。
クーパーズタウンの小さなメインストリートにはアパレルやトレーディング・カードなど野球に関する様々な商品を販売する店が軒を並べている。人口約2000人のクーパーズタウンはまさに野球の町である。
“Ichiro Suzuki” が野球殿堂入りを果たすのはいつか
引退した元選手たちは、現役最後の試合から5年が経過すると野球殿堂入りの対象となる。既にその資格を得た日本人元メジャーリーガーは数多くいるが、現在の段階で唯一、野球殿堂入り選出がほぼ確実と見られているのがイチローだ。2019年3月に引退したイチローは、最短で2025年には野球殿堂入りを果たし、その夏にはクーパーズタウンでの表彰式に臨む姿が見られる可能性は非常に高い。
メジャーリーグだけではない野球の歴史
野球殿堂博物館が伝えている歴史はメジャーリーグに関係したものだけには限らない。映画『プリティ・リーグ』(原題: A League of Their Own)のエンディングで描かれたように、女性だけのプロ野球リーグや黒人リーグの展示物コーナーも大きなスペースを占めている。米国の「国民的娯楽」と呼ばれる野球の歴史は日本人にとってもけっして無縁ではない。気軽に立ち寄れる場所ではないが、訪れるだけの価値はあると思う。
「アメリカ野球殿堂博物館」(National Baseball Hall of Fame and Museum)
住所:25 Main Street,
Cooperstown, NY 13326
電話:1-888-HALL-OF-FAME | 607-547-7200 |
Fax: 607-547-0398
公式ホームページ: https://baseballhall.org/
文・写真/角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。