文・写真/東リカ(海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター)
オレゴン州ポートランド郊外のワインカントリーにある「SakéOne(サケワン)」は、アメリカ初のプレミアム日本酒(特定名称酒)の蔵元。
その前身は、1992年に創立された青森県の老舗日本酒酒蔵「桃川」との合弁会社で、最初は日本酒輸入業務を行っていたが、1997年からは現地での酒造りを開始。翌年「サケワン」と改名し、全米初のアメリカ資本・経営によるプレミアム日本酒の酒造所となった。
サケワンでは、ウィラメット渓谷の理想的な清水やサクラメント渓谷の酒米など地元の素材を使い、酒造りの伝統、桃川の杜氏たちの助言を真摯に守りながらも、現地ならではの視点や個性を取り入れたお酒を作ってきた。
2018年には、日本酒造り歴30年以上という日本人杜氏を迎え、これまでの集大成とも言えるような最高級の日本酒を作るプロジェクトが始動した。
そして2020年4月、サケワンの夢であった最高級の純米大吟醸「薙刀(Naginata)」が完成。自社精米や麹も手作りするサケワンだが、薙刀の開発にも素材、米の研ぎ具合など、杜氏を筆頭に、寝る間も惜しんで取り組んだ。試行錯誤の後にたどり着いたのは、アーカンソー州産の山田錦を40%にまで精米した全てアメリカ産素材の純米大吟醸だ。
クラフト蒸留酒にインスピレーションを得たというボトルのデザインには、金属のラベル、映画のクレジットのような製造者の記載、また手書きの商品番号入りのシールなど細部にこだわっていて、一般的な日本酒とは一線を画す。開発チームは「一目見て、これはゆっくりと味わうべき、特別な品だと伝わるようにしたかった」と語る。
杜氏自らが一本一本瓶燗火入れしたという大吟醸の封を切った瞬間、華やかな香りが広がった。フルーティーな香りとベタつかない甘さがほどよく、素直に美味しいお酒だ。米国最初の独立アルコール飲料調査組織「B.T.I.(Beverage Testing Institute)」のコンペでも、94点・金賞を獲得し、「2020 Best Sake」に選ばれている。顧客にも好評で、これまでも1バッチ約600本で3度出荷したが、毎回、すぐに完売してしまうという。
「薙刀」というネーミングには、日本のイメージとしてよく知られている「刀」ほど有名ではないけれど、女性も手にしたパワフル且つ優雅な武器に、自慢の大吟醸はもちろん、カリフォルニアの酒蔵のように大きくはないけれど、独自の魅力を持つ凜とした酒蔵というサケワンの自負を重ねたと言う。
サケワンは、日本酒の伝統や歴史を守りつつも、今という時代、またグローバルな環境に合う形で日本酒の可能性を伝えたいと、全米初のフレイバー付き日本酒や缶入りの商品を開発。また、テイスティングルームでは、日本各地の様々なお酒を集めた「輸入日本酒5種」、「大吟醸4種」、通常はサケワンの有料会員向けの限定品や珍しいお酒を集めた「クラブ用の4種」、甘口のお酒や梅酒などを集めた「甘口5種」といった複数の利き酒セットに加え、日本酒カクテルも提供している。
例えば、春夏カクテル「にごりピニャコラーダ」のベースとなるココナッツとレモングラス風味のにごり酒「Moonstone Coconut Lemongrass Infused Nigori」は、クリーミーで驚くほど美味しい。また、テイスティングルームのスタッフは、この日本酒を「パンケーキに入れている」と話していたが、アメリカならではの日本酒の様々な味わい方が広がっているようだ。
国外ならではの意外な進化を遂げた日本酒。機会があれば、ぜひ一度試してみてほしい。
SakéOne
住所:820 Elm Street Forest Grove, OR 97116 USA
電話:+1(503)357-7056
HP: https://sakeone.com/;
文・写真/東リカ (海外書き人クラブ/アメリカ在住ライター) 米国オレゴン州ポートランド在住。2014年12月に家族でブラジル・サンパウロから移住。現在はフリーランスとして、日本のメディアへの執筆やマーケティングリサーチを行なっている。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。