春夏物の生地(サマーウーステッド)で仕立てたジャケット。中は「大見返し」(後述)という仕立て方になっている。

盛夏用の生地(ウール&リネン)で仕立てたジャケット。中は「大見返し」(後述)という仕立て方になっている。

今年も「クールビズ」の期間が始まって1か月がたちました。日経新聞の4月29日朝刊によると、「最近はより軽装な『スーパークールビズ』に人気が流れていたが、今年は百貨店各社が素材や機能にこだわったジャケットや上下のスーツなど、きっちり感の高い商品を目玉に据えている」そうです。

たとえば髙島屋では、イタリア人が夏でもきちんとジャケットを着ていることにバイヤーが気づき、「美濃和紙を使った、軽く吸汗・速乾性に優れたジャケット」を目玉として売り出しました。その後、日経新聞5月21日朝刊が「クールビズ かっちり派復権」と題して、この夏商戦ではジャケットの販売が好調であることを報じています。

身内の話で恐縮ですが、私の息子はローマの官庁街に店を構えるルイージ・ガッロ氏のサルトリアで3年ほど修業していました。その間、ガッロ氏を訪ねるたびに感じたことは、“イタリアのエリート達の服装が思った以上に地味でシックである”ということです。

つまりイタリアでは、日本のファッション情報誌に載っているような“ちょい悪オヤジ”はあまり見かけないのです。かわりに、ネイビーブルーやチャコールグレーの無地やクラシックな柄物で、中には(私たち洋服屋が見れば)見るからに注文服とわかるような仕立の良い服を着ている人たちにたびたび出会います。

また、数年前の夏にガッロ氏を訪問した時は、連日37℃を超える猛暑が続いていましたが、そんな中でも彼らはきちんとネクタイを締め、スーツに身を包んでいました。ローマのオフィスはいまだにクーラーの普及率は日本とは比べものにならないくらい低いにもかかわらず、彼らには“クールビズ”などという発想は全くありません。

その理由をガッロ氏はこう説明してくれました。

「イタリアでもスーツを着用する人の比率はどんどん下がっています。スーツを着なくてもいい職業の人々は、全くスーツを着なくなってしまった。ただし、スーツを着なければならない立場の人達は、その職業に就き、その地位にいることに大きな誇りを持っています。どのような時でもスーツを着ることで、自らの地位の象徴にしているし、仕立のよい上質なスーツを着ることに誇りを感じているのです」

常々、日本のクールビズのあり方に疑問を持っていた私としては、我が意を得たり、という思いでした。

進化し続けている、夏向けの洋服生地

本連載では、ビジネスシーンよりも、オフタイムの装いを中心に話を進めていますが、夏のオフタイムとはいえ、ちょっと改まった場所ではジャケットが必要です。

では、夏にふさわしいジャケットとはどういうものでしょうか?

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