取材・文/坂口鈴香

親の終の棲家をどう選ぶ?|「結果としてここに導かれた」老人ホームの施設長はシスター【1】

mawaritsukuriさんによる写真ACからの写真

「親の終の棲家をどう選ぶ?」では、さまざまな親子の終の棲家選びを紹介してきた。今回は高齢者施設を運営する側、「養護老人ホーム」の施設長の話をお届けしたい。

「養護老人ホーム」とは、65歳以上で、身体や精神、環境上の理由や経済的な理由で、自宅で生活することが困難になった人を対象にした施設だ。

その施設長、鶴田康代さん(仮名・57)は、ある修道会に属するシスターでもある。鶴田さんが所属する修道会が老人ホームの運営を委託されており、鶴田さんはその養護老人ホームで施設長を務めているのだ。

鶴田さんとは、約1年にわたりメールのやり取りをしながら、シスター兼養護老人ホームの施設長としての仕事や生活の様子をうかがってきた。

■家族の応援を受けて修道院に

鶴田さんが、シスターとして神に一生仕えることを決めた理由は何だったのだろう。

「私が修道院に入ったきっかけですね。まずカトリックへの入信ですが、私が生まれたのはクリスチャンの多い地方で、両親とも信者という環境でした。誕生して間もなく、カトリックの洗礼を受けています。周囲もほとんどの家がカトリックで、子どものころから日曜日には教会に行くのが当たり前という環境で育ちました。ただ、信仰が篤かったからということではなく、習慣として『そういうものだ』と思っていました。

学生生活が終わったとき、私は自分が何をしたいのか、何をしたらよいのか、わかってはいませんでした。それで実家の仕事を手伝っていたのですが、結婚というものにもピンとは来ないものの、いずれは結婚することになるのかな、などと思っていました。

父が病気で亡くなった年に、新しく教会に赴任してこられた神父様のお話に影響を受けたこともあり、教会のために働きたいと思うようになりました。とにかく、ここまでくるにはさまざまなできごとがあり、結果としてここに導かれたというのでしょうか。

ただ私の素地として、大叔父が神父で、二人の叔母がそれぞれ別の修道会のシスターであることも影響しているとは思います。そして、家族の応援を受けて修道院に入り、まもなく25年を迎えます」

鶴田さんの周囲に信仰に身をささげた人たちがそんなにもいたことに驚いた。その地域では、そう珍しいことではないのだろうか。そんなことを考えていたときに、届いたのがこんなメールだった。

「今朝、用事を済ますために町の方に行ったところ、修学旅行生の集団がガイドさんに誘導されてぞろぞろ歩いており、車を運転する私を発見するや『シスターだ、シスターだ』とざわめいておりました。彼女たちの脇をゆっくり通り過ぎながら『おはようございます』と声をかけました。この地にいるとシスターはそれほど珍しくないのですが、彼女たちはもしかしたら生まれて初めてシスターというものを見たのかもしれませんね。

逆に私たちの立場からすると、この姿でよその土地に行くのは少し緊張することもあります。東日本大震災のあと、たくさんのシスターたちもボランティアに参加しましたが、いろいろな配慮から、修道服ではなく普通の恰好で活動しています。ちなみに、修道会の中にはもともと決まった修道服がない会もあり、それぞれの活動のあり方などによって違っています」

■純粋な奉仕活動というわけにはいかない

老人施設の運営についても、鶴田さんの属する修道会ではごく当たり前のことだったという。

「修道会、とくに女子修道会は世界中にたくさんあります。活動のあり方もさまざまです。私の所属する修道会は、この地域に密着していますが、多くの修道会はもっとグローバルに活動しています。

私が所属している修道会は、今から50年ほど前に設立されましたが、その前身として明治時代に外国人宣教師を助けて働いていたカトリック信徒の女性たちのグループがありました。日本の福祉活動の原点のひとつともいえます。そのなかで、かかわる人たちの声にこたえる形で、児童養護、病院、保育、高齢者福祉と、活動が広がっていきました。

また修道会のもうひとつの活動の柱として、教会奉仕も大切にされてきました。ほとんどのシスターたちが、保育所や老人ホームといった事業所で奉仕をする一方で、教会でミサの準備をしたり、オルガンを弾いたり、教会学校で子どもたちに教えたりしながら、忙しい日々を送っています。ただ事業所の方は、昔のように純粋な奉仕活動というわけにはいかず、制度の変化に対応していかなければならないのが本当に大変で、能力不足を痛感する日々です」

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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