文/晏生莉衣
新型コロナウイルス感染拡大による休園や休校が続き、子どもたちの生活にも影響が続いています。「友だちと会えない」「外で遊べない」「勉強する気がしない」「家にいるのはもう飽きた」…… ストレスがたまる一方の子どもたちをどうしたらよいかわからないという声が多く聞かれています。そこで今回は、ウイルス感染の不安の中で家庭を守っていらっしゃる方々のために、小学生までを対象に、長引く自粛生活を子どもの成長につなげて乗り切るヒントを紹介したいと思います。
一日の行動をマークでわかりやすくデータ化
最初に、家にある適当な大きさの白い紙やダンボールを使って1週間分のカレンダーを簡単に手書きで作ります。お子さんが二人以上いらっしゃるご家庭はお子さん一人につき1枚を使いましょう。カレンダーは、お子さんが毎日、自分ができたこと、できなかったことを、自分で楽しく記録するために使います。あとは、カレンダーをリヴィングルームの壁に貼り、書き込むためのクレヨンや色鉛筆、カラーマーカーなどを用意すれば作業の準備は完了です。
<未就学の子どもには「今日、コレできた?」>
次に、毎日の空欄に書き込むテーマと、それを表すマークを決めていきます。まだ小学校に入学していない年齢のお子さんには、「よく手を洗う」「おそとはやめておうちで遊ぶ」など、ウイルス感染防止のための行動が取れたら「ニコニコマーク」、「おもちゃのお片付けをする」「お手伝いをする」など、おうちで何かできたら「ハートマーク」、家族のだれかとケンカしてしまったら「ダメダメマーク」、悲しかったり怒ったりして泣いてしまったら「泣き顔マーク」というように、親がテーマとマークを決めてから、「今日、これができたらハートを描こうね」というように子どもに説明します。
手を洗うことについては、すでに日頃から教わっているお子さんが多いと思いますので、特に新型コロナウイルスに触れる必要はありません。いつもどおりに、「お食事の前には手をきれいにしようね。洗えたらニコニコマークね」というようにすれば十分です。
そして、その日の夕食後からベッドタイムまでの間で都合の良い時間を決めて、一日を親子で振り返って、お子さんができたこと、できなかったことをカレンダーにお絵描きしましょう。描くのはもちろん、お子さん自身です。親は「今日はコレ、できたかな?」とお子さんに聞いて、作業を助ける役割りをします。ニコニコマークが描けたら「よくできたね」、ハートマークなら「やってくれて助かった。ありがとう」というような言葉をかけましょう。
同時に、子どもがダメダメや泣き顔マークを描いても、あまり深刻にとらえずに子どもの感情をそのまま受け止めてあげてください。幼いお子さんは、自分がなぜ泣いたのか、なぜ怒ったのかを言葉で説明することがむずかしいので、ダメダメや泣き顔マークのお絵描きをすることで不安な気持ちを伝えています。「今日はたくさん泣いちゃったね。でも今日はもうおしまい。明日はみんなでニコニコマークにできるといいね」というように、子どもの気持ちに共感して励ましの言葉をかけてあげましょう。それが、子どもにとって大切なカタルシスとなります。
作業については、幼いお子さんの場合は、カレンダーを壁に貼っておくのではなく、一日ごとのカレンダーにして描き込んでから貼ったほうがやりやすいかもしれません。シールが好きなお子さんならシールを作って貼るようにしても楽しいですね。
<小学生は「勉強」の項目を追加>
小学生以上は、学校が再開されるまで規則正しい生活リズムを保つことが必要ですので、それぞれのご家庭で、学校から与えられている学習課題をもとに最低限の時間割りを作り、子どもがそれを守って生活することが求められます。ただ、そうはいっても子どもは学校とは違って家にいてはどうしてもダラダラしてしまいがちですね。そんな環境の中で、子どもが自分から勉強に取り組み、同時に、新型コロナウイルスに感染しない生活上の注意も守る意欲を持ち続けるための工夫として、このカレンダーを取り入れましょう。
小学生でも基本的なコンセプトややり方は同じですが、勉強をきちんとできたら星マークというように、「勉強」の項目を加えます。勉強の内訳を増やして科目で色分けするのもよいアイディアです。あとは、「ウイルス感染防止の行動を取れたか」「家の手伝いをしたか」「家族と仲良くできたか」「落ち込んだり、つらかったり、不安に思ったりしたことがあったか」など、子どもがマークを選んで決めていきますが、年齢によって理解力が違いますので、必要なら親が助けてあげてください。そして、夕食後以降の時間に、「今日はどうだった?」と親子で一日を振り返ってカレンダーにマークを記録していきます。
マークとその数で表すことで、自分のその日の行動を見える形として確認できるので、子どもは自分が今日一日どのような時間の使い方をしたのかを思い出しながら達成感を感じたり、明日の意欲につなげたり、あるいは自分の弱点に気づいて反省したりすることができます。そして、「今日は国語はよくできたけど算数は星がついていないから、明日は算数を頑張ろう」というように、よりはっきりとした目的意識をもって、日々の時間配分を自主的かつ具体的に考えられるようにもなります。なんの基準もなく、ただ時間をもてあましてダラダラとした生活を送り続けるより、こうした自分のパフォーマンスデータがあれば、それを参考に、計画性をもって毎日を充実させていくことが容易になるでしょう。
ネガティブなマークが多くなったら、「どうしてかな?」「何が大変?」と聞いて、お子さんが抱えている疑問や不安を吐き出すことができるきっかけにしてください。年齢にもよりますが、小学生なら自分の気持ちを言葉で説明できるようになることは、成長過程で必要な能力の一つですから、せかさずに、お子さんの気持ちをよく聞いて受け止めてあげましょう。子どもの気持ちや疑問を否定せずに「そうか、それは悩むよね」と共感して、解決の方法をいっしょに考えます。新型コロナウイルスについてお友だちから聞いたことやテレビで見たことなどが不安の種になっているなら、それが正しい情報なのかどうか、親子でいっしょに調べてみましょう。正解や良い解決策がすぐに得られなくても、子どもの気持ちに親が寄り添うだけで子どもに安心感が生まれ、カタルシスにつながります。
あくまで「子どもが楽しむ」ために
マークによるパフォーマンスのデータ化で一番のポイントは、年齢にかかわらず、子ども自身が楽しみながら一日を振り返って自分ができたこととできなかったことを理解することです。頑張りすぎて子どもの負担になるのはよくありませんし、良いマークがつかなかったからといってそれを理由に子どもを叱ったり責めたりするのは本末転倒です。穏やかな親子団欒の時間だと思って子どもの作業につきあいましょう。そして、良いマークには「よくできた」「頑張ったね」とお子さんの努力を認めてほめて、良いマークが少なかったら「では明日はこうしようか」と提案したり励ましたりして、和気あいあいと話し合う材料にしてください。
未就学児、小学生ともに共通する作業面での注意点は、マークにあまり凝りすぎないことです。種類をたくさんにしてしまうと、カレンダーの全体像を見た時にどのマークが何を意味するのかよくわからなくなってしまいますから、マークは多くても4~5種類くらいまでにしたほうがよいでしょう。それぞれのご家庭の状況によって他のチェック項目があったほうがいいと思うものがあったら、それをつけ足しながら多くなりすぎないように調整してください。
そして、小学生低学年くらいまでのお子さんには、ニコニコマーク10個とか、ハートマーク10個とか、「できた」マークが集まったら、頑張ったことに対する小さなごほうびを用意しておくのもよいでしょう。物品を買ってあげる必要はまったくなく、お子さんの大好物のものを作ってあげるとか、作る余裕がなければ、お子さんに人気のお料理をテイクアウトするとか、お子さんの喜びそうなことを考えてあげてください。小学生高学年なら、「今週は合計で○○回の勉強ノルマを達成!」とノルマを設定してクリアしたら、「ゲームをいつもより1時間多くやっていい」というようなごほうびを用意するほうが喜ばれるかもしれません。
子どもたちの日々の「マークのデータ」はその後も保存しておけば、あとで振り返って、「新型コロナウイルスで休園・休校の時、自分はこんなふうに過ごしていたのだな」と記憶をたどって思い出せる、子ども時代の貴重な成長の記録になるはずです。
空爆の恐怖から娘を守ったシリアの父親
話が前後してしまいますが、基本的に、学童期に達しない幼いお子さんの場合、ウイルスといってもわかりませんし、人が死ぬとはどういうことなのかもまだ理解できません。ですから、「なぜ、おそとに出てはいけないの?」と聞かれたら、たとえば、「今はみんなでかくれんぼしているのよ。ずっと隠れていられたら一番になれるの。だから、みつからないようにおウチにいようね」というように、遊びにアレンジして話してあげるとよいでしょう。避けたいのは、「おそとにはコワい動物がたくさん出てきてしまった。全部つかまえるまでは危ないから、おウチにいなければいけないよ」というように、ウイルスを別の恐ろしいものにたとえることや、「外は危ない」というような説明をすることです。これでは、幼児向けの話にしたようでも、子どもに恐怖心や不安を抱かせてしまうことには変わりがありません。むしろ、ちょっと現実離れしているようでも子どもが安心できるストーリーにして、子どもを怖がらせない、不安にさせないことが肝心です。
これについては、心に留めておきたい海外でのエピソードがあります。コロナウイルスの世界的なアウトブレイクが始まる少し前、長引く内戦という別の緊張状態が続くシリアで、戦闘の空爆の恐怖から3歳の娘を守りたいと願う父親が、「爆弾は大きな音を立てる花火や爆竹で遊ぶのと同じだから怖くないんだよ」と娘に教え、「爆弾の音が聞こえたら楽しく笑おう」というゲームにして避難生活をしのいでいる様子がニュースなどで伝えられたのをご存知でしょうか。実際に聞こえてくる爆弾の音にちょっとびっくりするものの、すぐに大声で楽しそうに笑い出す幼い女の子と、それに合わせておどけていっしょに笑う父親の姿を映した動画が大きな反響を呼びました。
「娘が恐ろしい空爆のトラウマを受けないようにこのゲームを思いついた。今にも爆弾が自分たちの頭の上に落ちてくるかもしれない。でも、こうしてゲームをしていれば、死ぬ時だって楽しく笑っていられるからね」―― 米メディアのインタビューに答える父親のそんなお話に大変心を揺さぶられるとともに、このご家族をはじめ、シリア国内難民の方々のご無事を祈らずにはいられませんでしたが、その後、このご家族はトルコ政府の支援を受けてトルコに移ることができました。しかし、そのトルコにも新型コロナウイルス感染が広がることとなり、ご家族は再び、別の命の危険にさらされながら生活されています。安全に過ごされていることを願うばかりですが、あの娘思いの優しいお父さんなら、新型コロナウイルスについても、素晴らしい発想力でお嬢さんを安心させるアイディアを思いついていらっしゃるのでは、と想像しています。
* * *
「これは新型コロナウイルスとの戦争だ」と言われるようになりましたが、新型コロナウイルスの脅威は本物で大変恐ろしいものでも、外出を控えて家で過ごしていれば、見えない敵から身を守ることはとりあえずできます。平和な日本に暮らしながら、自粛だから仕方がないと漠然と日々を送るのはもったいない限り。与えられた時間の意味を考えながら少しでも有意義に過ごすことが、私たちにできる、ささやかでも大切なことなのだと思います。
文・晏生莉衣(Marii Anjo)
教育学博士。20年以上にわたり、海外研究調査や国際協力活動に従事。平和構築関連の研究や国際交流・異文化理解に関するコンサルタントを行っている。近著に国際貢献を考える『他国防衛ミッション』(大学教育出版)。