■母は、なぜ追い詰められたのか

しかし、万引きを主軸とした暮らしも、決して長くは続かなかった。

女はいつものように、野菜や肉をバッグに入れて店を出ようとしていたところ、背後から店員に呼び止められ、やがて身柄を警察に引き渡されて逮捕された。

女は、別のスーパーマーケットでパート勤務を続けながら、育ち盛りな年頃の2人の子どもを養っていたシングルマザーだった。

しかし、パート収入だけでは、どうしても毎月の生活費が回らなかった。なぜなら、別れた元夫の作った借金の返済に追われていたからである。

元夫は、厳しい返済請求に耐えられなくなり、家出同然で行方不明になったという。

しかし、残された妻の家では、依然として変わらずに催促の電話が鳴り止まず、いろんな金融機関から夫に対する請求書がひっきりなしに自宅の郵便受けに届いてくる。

「どうしよう」
「どうして、こうなっちゃったんだろう」
女は、激しく動揺し、自分の運命を恨んだ。

■生活保護を受けても足りない

中にはその家を実際に訪れて直接請求したり、嫌がらせの手紙を投函してきた業者もあったらしい。元夫は、いわゆる「ヤミ金融」からも借りていたとみられる。

本来、妻は元夫の保証人になっていない限り、元夫が個人的に作った借金を背負う必要などない。しかし、あまりにも厳しい催促を受けるあまり、「わたしが返済しなきゃいけない」と、ひとりで責任を抱え込んでしまったのだろう。

パートの収入だけではどうしても生活費が足りず、いよいよ自治体から生活保護を受けながら、ギリギリの暮らしを送ってきた。ただ、子どもが成長するにつれ、学費や食費などもかさんでくる。

なお、毎日の生活費をギリギリまで切り詰めなければならない日々が続いていく。毎日、お金のことを1けた単位まで気にしなければやっていけない暮らしに耐えられず、ついに一線を越えてしまったのである。

【事件を担当した裁判官は、閉廷後にその母を呼び止め……。後編に続きます】

取材・文/長嶺超輝(ながみね・まさき)
フリーランスライター、出版コンサルタント。1975年、長崎生まれ。九州大学法学部卒。大学時代の恩師に勧められて弁護士を目指すも、司法試験に7年連続で不合格を喫し、断念して上京。30万部超のベストセラーとなった『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)の刊行をきっかけに、記事連載や原稿の法律監修など、ライターとしての活動を本格的に行うようになる。裁判の傍聴取材は過去に3000件以上。一方で、全国で本を出したいと望む方々を、出版社の編集者と繋げる出版支援活動を精力的に続けている。

『裁判長の沁みる説諭』(長嶺超輝著、河出書房新社)

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