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【裁判長の説諭】失踪した夫の借金返済を肩代わり。生活費に困り、子どもたちを育てるために食材を万引きし続けた母(後編)

取材・文/長嶺超輝

【裁判長の説諭】失踪した夫の借金を肩代わり。生活費に困り、子どもたちを育てるために食材を万引きし続けた母。この事件を担当した裁判官は、閉廷後にその母を呼び止めて……。(後編)

パートで働きながら2人の子どもを育てていた、とあるシングルマザーの女は、本来は肩代わりする必要のない元夫の借金を、不安に駆られて肩代わりし続けているうちに、生活費に困り、生活保護を受けても足りないという窮状に追い込まれた。そのために、スーパーで食材を万引きし続けて食費の不足を補っていた。
万引きに慣れていく自分に戸惑いつつも、罪悪感を抱えながら犯行を続けていた女に、はたして、裁判官はどのような判決を下すのか。

【前編はこちら

* * *

■万引きの動機 3種類の背景

店舗に陳列してある商品を盗むことを「万引き」と呼ぶわけだが、万引きの動機は、おもに3種類に分けられる。

【1】生活する目的の万引き

ホームレスや生活保護者など、その日を生きのびるために食品を万引きする場合である。自分が欲しいものをそのまま盗んでいるわけで、犯行動機として、私たち一般人にもイメージしやすいかもしれない。

本件の女も、生活費に困窮するあまり、自分と子どもたちを食べさせるため、食料品を盗み続けていた。

こうなると、月々の収支を見直し、住む場所と働き口など、生活水準を引き上げる努力や工夫をしなければ、処罰したところで、また万引きを繰り返してしまう。いくら本人が反省を口にしても、万引きをする根本的な原因が解消されていないからだ。

【2】換金目的の万引き

要は、盗んだものを質屋やリサイクルショップ、ネットオークションなどで転売し、現金化するための犯行だ。盗む商品そのものには関心がなく、それが、高く売れるかどうか、売りやすいかどうかに関心がある。

たとえば、本屋での書籍の万引きは、ほとんどのケースが転売目的となっている。書店にとって、本の売上げに対して得られる利益は薄い。本を1冊万引きされただけでも損害は非常に大きい。10冊ほど売らなければ元が取れないほどといわれるし、万引きが繰り返されたせいで潰れた書店も少なくない。

裁判を傍聴していると、稀に「自分で読みたかったが、高すぎて買えなかった」という理由で、海外の専門書を万引きした被告人の法廷に居合わせることもあるが、あくまでも例外的である。

【3】ストレス解消目的の万引き

どうすれば店員に見つからないか、自分なりに戦略を立てて、スリルや達成感を味わうための犯行だ。本件の女の犯行にも、この目的が含まれていたように感じる。

日常生活に張り合いがなく、刺激を求めるために万引きをする人もいるし、仕事や家庭で嫌なことがあり、その腹いせに万引きをする人もいる。そんな身勝手な理由で万引きをされては、店舗を経営するオーナーにとっては、たまったものではない。

ただ、店員や客の目をかいくぐって、バレないように商品を店外へ持ち出す行為そのものに、スリルと快感を得て、何度も繰り返してしまう人がいるのも事実である。

いわゆる「窃盗症(クレプトマニア)」の患者による万引きも、ここに当てはまるのだろう。いわば、万引きの「中毒」「依存症」となって、やめられなくなってしまった人である。

私は過去に、財布の中に30万円近くの現金を入れておきながら、コンビニで万引きをして捕まった主婦の裁判や、2000万円以上の貯蓄があるにもかかわらず、スーパーで食品を万引きし続けていた看護師の裁判などを取材したことがある。

急激なダイエット経験のある女性に、クレプトマニアの患者が多くみられる傾向があるが、その詳しい原因は分かっていない。クレプトマニアにかかっている万引き犯を捕まえて処罰するだけでは、また再犯を繰り返すだけなので、他の依存症と同様に、医学的な治療の対象となる。

本件の女性による万引きは、【1 生活する目的】と【3 ストレス解消の目的】の混合型だったように感じた。

■執行猶予中に、万引きの再犯

万引きはれっきとした窃盗罪であり、社会的に厳しく非難されるべき犯罪である。

女は、窃盗の罪によって執行猶予つきの有罪判決を受け、釈放されたが、約3年後、またしても万引きを繰り返してしまった。執行猶予期間中の犯行である。警察官に逮捕され、検察官に起訴され、再び裁判にかけられることになった。

ふたりの子どもを置いて刑務所へ入るのは、非常に辛い。女の実家、つまり、ふたりの子どもにとっての祖父母の家で預かってもらう約束をしていたが、今までの育児の努力が無に帰する気がした。

■いよいよ、裁判が始まった

「たしかに、万引きしたものを子どもたちに食べさせてきたなんて、ひどい話で、親としてどうなんだと言われても仕方ないです。でも、私がどうなっても、子どもたちには食べさせて、ちゃんと育ってほしいと思いました」

検察官からは、もっと早く実家の協力を得るべきだったのではないかと問われていたが、転校させることになるし、できるだけ自分で責任を果たしたかったと述べた。

そこには、やはり素朴で強靱な「子を思う親の気持ち」がある。その気持ちの強さは、他の親に比べても、決して見劣りすることはないだろう。

ただ、その親の気持ちに、子を守るための環境や条件が追いつかなかったにすぎない。もっとも、経済的な環境がどうしても整わず、「実家に迷惑がかかる」と、誰にも助けを求められなかったことこそ、犯罪に手を染めてしまったきっかけとなってしまった。

「私が作った借金じゃないのに、どうしてこうなってしまったのか」と、自分だけが理不尽な目に遭っているという、世の中への恨みや投げやりな感情も、万引きの繰り返しに拍車を掛けてしまったようだ。

今回の裁判では、さすがに前回の執行猶予が取り消され、裁判官によって刑務所行きが命じられるものと、容易に予想された。

裁判の前、弁護人も女にそう告げていたし、女も服役を覚悟していた。

【待っていたのは意外な判決だった…。次ページに続きます】

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